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    企業: Jackery(華宝新能) 企業: BLUETTI Smart Devices

    「防災特需の裏で在庫過多」JackeryとBLUETTIの消耗戦

    地震や台風への備えとして日本のホームセンターやECを席巻するポータブル電源。だが欧州エネルギー危機の反動と三元系からリン酸鉄リチウムへの急速な技術転換は、JackeryやBLUETTIに巨額の在庫評価損と価格消耗戦を強いた。広告費の高騰と回収コストに揺れる深圳発ハードウェアの光と影を解剖する。

    🇯🇵 日本産業対照:
    「防災特需の裏で在庫過多」JackeryとBLUETTIの消耗戦

    日本の家電量販店やホームセンターの特設コーナーを席巻するJackery(華宝新能)のポータブル電源と折りたたみ式ソーラーパネル。キャンプ需要の一服後、地震・台風対策としての「家庭用非常電源」が主力購買層へと移行した(出所:Jackery Japan公式/Radar編集部)

    1. 巨大地震注意と空前の特需——日本の店頭を埋めるオレンジと黒

    2024年8月、気象庁が発令した「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」と相次ぐ台風の上陸は、日本の小売現場に空前の防災購買パニックを引き起こしました。

    都内の大手家電量販店やカインズ、DCMといった郊外型ホームセンターの特設売り場では、水や非常食の棚が瞬く間に空になる傍ら、ひときわ異彩を放つコーナーがありました。オレンジ色のアクセントカラーが目を引く「Jackery(ジャクリ)」、そして重厚なチャコールグレーを纏った「BLUETTI(ブルーティ)」のポータブル電源です。1台あたり十数万円から三十万円を超える高額機器でありながら、週末には数十台が飛ぶように売れ、メーカーの倉庫在庫は一時的に払底しました。

    現在、日本国内で流通するポータブル電源の9割以上は、中国・深圳のサプライチェーンで設計・製造されています。かつてリチウムイオン電池の受託製造(OEM/ODM)で技術を培った深圳のハードウェア起業家たちは、キャンプブームと日本の災害対策需要をいち早く捉え、わずか数年で数百億円規模の巨大市場を日本に作り上げました。

    しかし、店頭の華やかな「特需」の裏側で、メーカー各社が直面している現実は決して甘いものではありません。決算書を紐解けば、そこに浮かび上がるのは、急激な技術革新による旧世代在庫の評価損、ECプラットフォームでの過酷な値引き合戦、そして跳ね上がるユーザー獲得コスト(CAC)に苦しむ消耗戦の構図です。


    2. 三元系からリン酸鉄への地殻変動——棚に眠る「数億円の旧型資産」

    ポータブル電源業界を直撃した最大の構造変化は、電池セルの化学組成における急激な世代交代でした。

    2020年から2022年にかけての成長初期、Jackeryをはじめとする主要メーカーは「三元系リチウムイオン電池(NCM)」を主軸に据えていました。エネルギー密度が高く、同じ蓄電容量であれば軽く小型に作れるため、アウトドアへの持ち出しやすさをアピールする上で最適な選択肢だったからです。

    しかし、製品の用途が「年に数回のキャンプ」から「10年間の家庭内防災備蓄」へとシフトするにつれ、ユーザーの要求水準は一変しました。三元系電池の充放電サイクル寿命は約500〜800回にとどまり、経年劣化による膨張や熱暴走リスクに対する懸念が専門誌や愛好家の間で指摘され始めたのです。

    第1世代:三元系リチウム(NCM)

    「軽さ」と引き換えの短寿命

    • サイクル寿命:約500〜800回(2〜3年で容量が80%以下へ劣化)
    • 安全性リスク:高温環境下での熱分解温度が低く、衝撃時の発火懸念
    • 在庫リスク:技術転換後に店頭での敬遠が進み、評価損の主因に
    第2世代:リン酸鉄リチウム(LiFePO4)

    「10年放置できる」高耐久と安全性

    • サイクル寿命:約3,000〜4,000回以上(10年間の日常使用に耐える耐久性)
    • 熱的安定性:熱暴走温度が約600℃と極めて高く、火災の危険性が極小
    • 重量ペナルティ:重量エネルギー密度が低く、本体重量が約20〜30%増加

    この潮目を捉えてJackeryの牙城に切り込んだのが、徳蘭明海が率いるBLUETTIでした。BLUETTIは早期から「リン酸鉄リチウム(LiFePO4)」を全ラインナップに採用し、「3,000回充放電・10年長寿命・発火リスクの低減」を前面に押し出して差別化を図りました。

    この技術シフトは、先行者であったJackeryに痛烈な打撃を与えました。海外倉庫に抱えていた大量の三元系モデル(Explorer 1000/1500/2000など)が、一瞬にして「前世代の陳腐化製品」と見なされるようになったためです。

    中国・深圳証券取引所に上場する華宝新能(Jackeryの親会社)の2023年決算は、この技術転換の痛みを如実に示しています。売上高は前年比27.8%減の23億1,400万元(約480億円)に落ち込み、純利益は前年の2億8,700万元の黒字から1億7,400万元(約36億円)の赤字へと転落しました。主因となったのは、1億5,000万元を超える「棚卸資産評価損(在庫の減損処理)」の計上でした。旧型モデルの在庫を履き切るために大幅なディスカウントを余儀なくされ、粗利率が急激に侵食されたのです。

    「ハードウェアの安売り競争に未来はない。バッテリー技術の安全と寿命を犠牲にした拡大は、必ず在庫という名の負債になって跳ね返ってくる」
    尹相柱(徳蘭明海 / BLUETTI 創業者兼会長)

    3. 「半額でも売れない」泥沼のECセールとトラフィックの罠

    技術世代交代の混乱に追い打ちをかけたのが、過剰在庫の処分を巡る過酷な値引き競争でした。

    Amazonプライムデーや楽天スーパーSALE、ブラックフライデーの期間中、各社の公式ストアでは「最大50%OFF」「63%OFF」「クーポン適用でさらに値引き」という刺激的なバナーが飛び交います。十数万円の定格1,000Whモデルが実質6万円台で投げ売りされる光景は、もはや恒常的なイベントとなりました。

    しかし、大幅値引きを行ってもメーカーの手元に利益はほとんど残りません。オンライン直販(D2C)で売上を立てるためには、莫大なデジタル広告費の投入が不可欠だからです。

    リン酸鉄リチウム電池を搭載し防災グッズ大賞を受賞したBLUETTIのポータブル電源
    防災推奨認証を取得し、日本の住環境に溶け込む落ち着いた意匠を採用したBLUETTI(徳蘭明海)のポータブル電源。先行するJackeryに対抗し、リン酸鉄リチウムの標準化とワット時(Wh)単価の引き下げでシェア奪取を図る(出所:BLUETTI JAPAN公式/Radar編集部)

    香港取引所(HKEX)へのIPOを申請した徳蘭明海(BLUETTI)の財務データは、この「トラフィックの買い付け競争(ユーザー獲得広告(UA)の大量出稿)」の過酷さを浮き彫りにしています。

    同社の2023年の売上高は17億7,700万元(約370億円)に達したものの、最終損益は1億8,400万元の純損失を記録しました。2024年も売上高21億7,400万元に対して4,662万元の赤字が続いています。売上総利益率は40%台半ばと健全に見えるにもかかわらず赤字から脱却できない最大の理由は、売上高の30〜35%を占める「販売・マーケティング費用(2023年は6億2,200万元)」の存在です。

    企業・指標華宝新能(Jackery)徳蘭明海(BLUETTI)業界への影響と背景
    主要ブランドJackery(電小二)BLUETTI(鉑陸帝)オレンジ×黒 vs チャコールグレーの2大陣営
    バッテリー戦略三元系先行 ➡️ PlusシリーズでLFPへ全面刷新早期からリン酸鉄(LiFePO4)を標準搭載技術移行期の旧型在庫処分が明暗を分ける
    2023年売上高約23億1,400万元(約480億円)約17億7,700万元(約370億円)欧州エネルギー危機一巡後の需要急減速
    2023年純損益△1億7,400万元(赤字転落)△1億8,400万元(純損失)在庫評価損と販促広告費の急増が利益を圧迫
    販売費用率約35.6%(8億2,400万元)約35.0%(6億2,200万元)EC検索広告とプラットフォーム手数料の消耗戦
    日本展開手法JVCケンウッド連携 ➡️ 量販店・直販網Makuakeクラウドファンディング ➡️ 直販D2C日本市場特有の信頼性構築とアフター網が必須

    Amazonや楽天で「ポータブル電源」「防災 バッテリー」といったキーワードの検索連動型広告(PPC)のクリック単価は高騰を続け、売上高の3割以上がプラットフォーム手数料と広告枠の買い付けに消えていきます。消費者側でも「ポータブル電源はセール期に半額で買うもの」という認識が定着してしまい、定価販売が困難になるというブランド価値の摩耗を招いています。


    4. 20キロの重量と廃棄の壁——日本市場が突きつけた「静脈物流」の代償

    マーケティングの消耗戦に加え、日本市場特有のハードウェア要件と社会制度もメーカー各社に重いコストを強いています。

    第1の壁は、「重量と住環境の物理的妥協」です。 リン酸鉄リチウムへの移行は長寿命と安全性を実現した反面、エネルギー密度の低さゆえに本体重量を大幅に増加させました。1,000Wh〜2,000Whクラスの主力モデルは、本体重量が15kgから25kgに達します。

    20代から30代のアウトドア愛好家であれば車への積み込みは容易ですが、災害時にエレベーターが停止したマンションで高齢者が20kgのバッテリーを抱えて避難階段を降りることは物理的に不可能です。そのため、各社はGaN(窒化ガリウム)素子を用いた充電回路の小型化や、分割モジュール構造(本体と増設バッテリーの分離)、さらには厚さ67mmの超薄型モデル(Jackery SlimPowerなど)を投入し、日本の住宅事情に合わせた設計変更を急ぎました。

    2019 - 2021

    アウトドア特需と三元系全盛期

    コロナ禍のキャンプブームとJVCケンウッドとの協業により、軽量な三元系NCMバッテリーを搭載したJackeryが日本市場で急速に認知を獲得。

    2022 - 2023

    欧州エネルギー危機とLFPショック

    ウクライナ情勢による欧州特需が一巡。BLUETTIがリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を武器に台頭し、旧型在庫の評価損で各社が軒並み赤字転落。

    2024 - 2026

    防災インフラ化と静脈物流のコスト

    巨大地震注意を契機に家庭用防災電源へシフト。UPS機能(瞬低防止)の標準化と、使用済みバッテリーの無償回収という環境負荷コストが本格化。

    第2の、そしてより深刻な壁が「廃棄バッテリーの回収・リサイクル(静脈物流)」です。

    日本国内のほぼすべての自治体において、大型のポータブル電源は「適正処理困難物」に指定されており、通常の不燃ゴミや粗大ゴミとして収集されません。膨らんだり故障したりしたバッテリーを家庭内に放置することは火災のリスクを高めるため、製品を販売したメーカーが責任を持って回収する仕組みが不可欠となりました。

    Jackery JapanやBLUETTI JAPANは、自社製品の無償回収サービスを開始し、ユーザーからの返送送料や専門中間処理施設でのリサイクル費用を全額自社負担しています。1台あたり数千円に及ぶこの回収コストは、販売台数が累積するほど将来の引当金として重くのしかかります。「売って終わり」の海外輸出モデルから、「製品ライフサイクルの最後まで責任を持つ現地法人」への脱皮が、利益率を削る構造的な要因となっているのです。


    5. 防災グッズから家庭用蓄電インフラへ——深圳勢が模索する次世代の生き残り策

    単なる「持ち運べる巨大モバイルバッテリー」としてのポータブル電源は、すでに市場の普及期を終え、コモディティ化の過酷な淘汰フェーズに突入しています。

    この消耗戦を抜け出すため、JackeryとBLUETTIは2つの明確な転換を図りつつあります。

    1つ目は、「アウトドア用品から住宅用蓄電インフラへの拡張」です。 両社ともに、ベランダや庭先に設置できる「バルコニー太陽光発電・小型家庭用蓄電システム」の開発に注力しています。停電時だけでなく、日常の電気代高騰対策として電力を自家消費するマイクログリッド機器へと進化させることで、単発の機器購入から長期的なエネルギー管理ソリューションへと顧客単価を引き上げる狙いです。

    2つ目は、「次世代電池技術の実用化」です。 BLUETTIは極寒環境(マイナス20℃以下)でも出力が低下しないナトリウムイオン(Na-ion)電池搭載モデルを発表し、リチウム資源の価格変動リスクを回避する新技術を打ち出しました。Jackeryも10ミリ秒以内で自家発電に切り替わる高速UPS(無停電電源装置)機能を標準搭載し、医療機器や在宅ワーク用PCの電源喪失を防ぐBCP(事業継続計画)用途として自治体や法人需要を開拓しています。

    深圳の圧倒的なサプライチェーン速度が生み出したポータブル電源ブーム。その第1幕は、巨額の在庫調整と血の滲むような値引き合戦という手痛い授業料を支払って幕を閉じました。防災大国・日本で生き残りを賭ける彼らの戦いは、単なるガジェットの販売競争を超え、生活インフラとしての信頼性と資源循環の責任を問う新たな段階を迎えています。

    なお、同領域における産業構造の転換については、本誌が先に検証したEcoFlowがホンダの牙城を崩すポータブル電源と防災革命およびダイソンを超えた「毎分18万回転」:追覓・兪浩が下請けを捨てた日の分析もあわせて参照されたい。

    参考資料・情報元

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    執筆・編集:中国テック番犬 編集部

    孔明合同会社(KongMing LLC)/ 先端技術リサーチチーム
    10年の取材実績

    中国決済黎明期から10年以上の取材実績を持つ金融DX実務家、元IBMのエンタープライズITアーキテクト、外資系戦略コンサルティングファーム出身のビジネスアナリスト、およびAI・先端テックスタートアップ陣によって構成される専門リサーチ集団。現地の公式発表・法定開示・登記・特許・学術論文を直接精査し、日本の産業界へ向けて構造的で偏りのない客観インサイトを発信しています。

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