
従来の国際貿易では、取引回数が少なく金額も大きいため、銀行の国際送金(SWIFT)で大半のニーズが満たされてきた。しかし、越境ECの爆発的な成長や、観光・留学・国際展示会といった人の移動の増加により、従来の銀行決済インフラでは対応しきれない新たな課題が生まれている。
従来の国際銀行決済が抱える限界
近年の中国におけるクロスボーダービジネス(海外進出・グローバル展開)には4つの構造的変化がある。
- 越境ECの急成長:輸入・輸出ともに規模が拡大し、小口・高頻度の決済ニーズが激増。
- サービス取引の増加:観光・留学・国際会議参加者の増加に伴い、ホテル・航空券・語学学校などへの決済需要が多様化。
- 越境ビジネスに参入する中小企業の急増:コア競争力はあっても、グローバル決済・物流・通関申告への依存が大きい。
- 個人消費者の小口・高頻度ニーズ:安全かつ便利で、決済完了までの時間が短く、コストが低いサービスへの需要が高まっている。
AlipayとWeChat Payが弱い分野
中国国内の決済市場は実質的にAlipay(支付宝)とWeChat Pay(微信支付)の2強が市場シェアの90%近くを占める。日本で言えば、PayPayが圧倒的シェアを持つ構図に近いが、中国のデジタル経済における決済の浸透率を入れると、それをはるかに凌駕する。しかし、グローバル展開を狙うクロスボーダー決済では事情が異なる。
越境ECでは、サプライチェーン管理能力がプラットフォームやユーザー基盤と同等に重要だ。アリペイはアリババのプラットフォーム優位を持つが、Tmall Global(天猫国際)でさえ市場シェア20%強にとどまり、JD.com(京東)やNetEase Koala(網易考拉)などと拮抗している。WeChat Payはミニプログラム生態系(WeChat内で動く軽量アプリ)などによるソーシャルネットワーク上でのエンドユーザー獲得に強みを持つが、海外のアクワイアリング、外国為替換算、および国際決済チェーン全体への対応はまだ発展途上にある。
人民元クロスボーダー決済システム(CIPS)が追い風
2015年に中国人民銀行が稼働させた人民元クロスボーダー決済システム(CIPS)は、従来の国際銀行間決済と比べて大きな優位性を持つ。
- 中間プロセスを削減し、海外企業が中国国内の支店を通じて人民元で直接決済できる。
- 国際標準のISO 20022メッセージ規格を採用し、トランザクションエラー率を低減。
- 欧州・アジア・アフリカ・オセアニアなど各地域の主要営業時間をカバーする長い稼働時間。
CIPSの整備により、人民元の国際化が進み、米ドル建て決済(SWIFT)への過度な依存から脱却を図る動きが強まっている。
3つの生存戦略に分かれる決済事業者
国内決済市場でほぼ勝负が決まりつつある中、各社は大きく3つの方向に収束している。
- エンドユーザー市場の2強:AlipayとWeChat Pay。銀聯(UnionPay)QRコード決済も注目を集めるが、シェア拡大の持続性は不透明。
- 大企業グループの社内決済部門:美団(Meituan)、蘇寧(Suning)、国美(Gome)などが保有する決済ライセンスは、グループ内の巨大な取引エコシステムを支えるために活用。
- 企業向けフィンテックサービス事業者:越境EC・海外教育・航空券・ホテルなどの垂直市場に特化。取引手数料への依存から脱却し、技術サービス料と付加価値金融サービスを収益源とする「フィンテックサービスプロバイダー」への転換が進む。
企業向け(B2B)のクロスボーダー決済サービス市場は、一般消費者向け(B2C)に比べて利益率が決済手数料よりはるかに高く、取引先の乗り換えコストも大きいため事業安定性が高い。グローバル展開が進む中、この成長市場を制した事業者が、次の中国フィンテック覇権を握る可能性がある。
情報源:業界レポート
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