
モバイル決済大国である中国において、新たなテクノロジーの社会実装が行われました。アリペイ(Alipay / 支付宝)は、同社が本社を置く浙江省杭州市のケンタッキーフライドチキン(KFC)店舗において、デバイスを必要としない顔認証決済サービス「Smile to Pay(スマイル・トゥ・ペイ)」の初の商用テストを開始しました。笑顔を見せるだけでスピーディーに決済が完了する、SFのような未来の購買体験が具現化されています。
「Smile to Pay」の技術的アプローチと操作プロセス
事前にAlipayアプリで顔認証機能を有効化していれば、ユーザーは店舗での会計時にスマートフォンを取り出す必要すらありません。
レジカウンターに設置された3Dカメラ付きのスマート端末がユーザーの顔を立体スキャンし、高度なバイオメトリクス(生体認証)処理を行うことで本人確認を完了します。さらに、なりすまし防止の2要素認証として、アカウントに紐付いた携帯電話番号の入力を組み合わせることで、強固なセキュリティを担保しています。スキャンから決済完了までに要する時間はわずか数秒です。
この顔認識技術のバックエンドには、中国トップクラスのAIスタートアップである「Megvii(メグヴィー / 曠視科技)」が開発した画像認識エンジン「Face++」が採用されています。Megviiはフォックスコン(Foxconn / 鴻海精密工業)などから1億5000万ドル以上の資金を調達し、スマートシティやセキュリティ分野で世界最先端のコンピュータビジョン技術を提供している企業です。
アリババの「新小売(ニューリテール)」戦略とYum Chinaへの投資
今回、テスト店舗としてKFCが選ばれたのは、アリババグループおよびアントグループが、KFCやマクドナルド、タコスベルなどの中国国内オペレーターを担う「Yum China(百勝中国)」に大規模な出資を行っているという資本関係に基づいています。
アリババは、「新小売(ニューリテール / OMO)」というコンセプトを掲げ、ECでの強みをリアル店舗のデジタル化に繋げる戦略を強力に進めてきました。上海などの主要都市では、モバイルアプリと完全連動した生鮮スーパー「フーマー(盒馬鮮生)」を多店舗展開しており、今回の「Smile to Pay」もこのオンラインとオフラインの小売データを一元化する戦略の一移転と位置づけられています。
中国での急速な顔認証普及と日欧におけるプライバシー保護の壁
当時、中国ではテンセントのWeChat Pay(微信支付)との激しい決済シェア争いが繰り広げられており、Alipayは顔認証という「スマートフォンの画面ロック解除すら超える」シームレスな体験を提示することで、プラットフォームとしての差別化を狙いました。
一方で、日本やヨーロッパをはじめとする諸国では、生体情報の集中管理や顔認識カメラの設置に対するプライバシー(個人情報保護)上の懸念が極めて強く、商業店舗への顔認証決済の本格導入には法的・倫理的ハードルが存在します。中国においては、政府によるキャッシュレス・デジタル化の推進姿勢と、新技術に対する社会全体の受容性の高さが相まって、顔認証という最もダイレクトな生体決済が実用化フェーズへと至る足がかりとなりました。
情報源:TechCrunch
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