Ankerといえば、多くの人にとって「モバイルバッテリーの会社」だと思います。スマホが充電切れになりそうなとき、カバンに入れておくあの黒い箱。それが今、ヨーロッパの家庭の電力代を自動で節約するシステムに進化しています。
しかも面白いのは、仕組みの根本にある考え方です。電気を賢く「溜めて、タイミングよく使う」だけで、何もしなくても電気代が浮くようになった――その話をしたいと思います。
1. ヨーロッパでは「電気代がマイナス」になる日がある
少し意外な話から始めます。ドイツやフランスでは、晴れた日の昼間に電力の卸売価格が「マイナス」になることがあります。発電量が多すぎて、電力会社が「もらってくれたらお金を払う」状態になるわけです。
なぜかというと、ここ数年でソーラーパネルを屋根やベランダに設置する家庭がぐっと増えたからです。特にドイツでは「Balkonkraftwerk(バルコニー発電所)」と呼ばれるプラグイン型のミニソーラーが100万世帯を超えて普及しました。日当たりのいい正午あたりに、そのパネルたちが一斉に発電する。でも家の人はみんな外出中で、家電はほとんど動いていない。電気は余りまくって、電力網に逆流し、価格が崩れる。
問題は、余った電気を「蓄えておく手段」が普及していなかったことです。溜めておけないから捨てるしかない。これはなかなかもったいない話です。
2. アンカーが考えた解決策:「賢い箱」をベランダに置く
そこに目をつけたのがアンカーの蓄電ブランド「Anker SOLIX」です。
彼らが出した「Solarbank 2 Pro」は、見た目はソーラーパネルとセットで置く大きめの箱なのですが、中身がちょっと面白い。単なる蓄電池ではなく、電力の値段をリアルタイムで見ながら、勝手にどのタイミングで充電してどのタイミングで使うかを判断します。

仕組みはこうです:
ヨーロッパでは電力の卸売価格が時間帯によって細かく変わります。昼間に電気が余っているときは安く、夕方みんなが帰宅して需要が増すと高くなる。Solarbank 2はこの価格の動きをインターネット経由でチェックして、「今は安いから充電しておこう」「夕方は高いから今のうちに溜めた電気を使おう」と、自動で動きます。
使う人が設定画面をいじる必要はありません。箱がネットに繋がっていれば、あとは勝手にやってくれる。
これを「VPP(Virtual Power Plant=仮想発電所)」と呼びます。数十万台のSOLIXが各地のベランダで同じように動くことで、まるで一つの大きな発電所のように、電力網の需給バランスを整える存在になる、という考え方です。
3. 「200万円の蓄電池」と「20万円の蓄電池」、何が違うのか
ここで日本の話をすると、なかなか驚く人が多いです。
日本では、住宅用の蓄電システムを設置しようとすると、工事費込みで200万〜300万円かかるのが普通です。電気工事士を呼んで、分電盤を改修して、コンクリートの基礎を打って……というプロセスが必要なので、どうしてもコストが膨らみます。
一方でAnker SOLIXのシステムは、ソーラーパネルと蓄電池合わせて20万〜35万円程度。設置は自分でできます。文字通り「置いてコンセントに挿す」だけです。
| 日本の従来型住宅蓄電池 | Anker SOLIX Solarbank 2 | |
|---|---|---|
| 導入費用の目安 | 200万〜300万円(工事込み) | 20万〜35万円(DIY可) |
| 設置に必要なもの | 電気工事士・基礎工事・分電盤改修 | コンセントと日当たりのある場所 |
| 電力価格との連動 | ほぼ非対応 | 電力市場と自動連動 |
| 容量の拡張 | 基本的に固定 | バッテリーを積み増しするだけ |

このコスト差がなぜ生まれるかというと、設計思想の違いが大きいです。日本の従来型は「長期保証・業者設置・クローズドな制御システム」を前提にしている。アンカーは「量産・DIY・スマートホーム標準規格との連携」で設計している。どちらが正解というわけではないですが、欧州市場では後者が急速に支持を集めています。
4. 日本でも「捨てている電気」が増えている
実は日本でも似たような問題が起きています。
九州や東北では、晴れた春や秋に太陽光発電が増えすぎて、送電網が受け入れられなくなることがあります。そうなると「発電を止めてください」という指令が出る。これを「出力制御」と呼びます。せっかく発電できるのに止めてしまう、というわけです。
電気代は上がっているのに、作れる電気は捨てている。その矛盾を解消するのに一番効果的なのは、家庭や地域に蓄電池を広げることです。でもコストの壁が高すぎて、なかなか普及しない。
アンカーのアプローチが仮に日本でも広がれば、その構造が変わる可能性があります。工事なしで数十万円で買えて、電力市場とも連動する。使う人にとっては「お得な節電ガジェット」でも、送電網から見れば「分散した小さな発電所の集まり」になる。
充電器の会社が電力インフラに関わる存在になっている、というのはなかなか面白い話だと思います。
なお、同領域における産業構造の転換については、本誌が先に検証した120Wを手のひらに:アンカーGaNPrime、電源回路の現実および「5年間、容量劣化ゼロ」CATL天恒、6MWh巨大蓄電池の衝撃の分析もあわせて参照されたい。
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