インド政府が強力に進めるキャッシュレス推進政策のもと、巨大なインド決済市場の主導権が、米グーグル(Google)や米ウォルマート(Walmart)などの米国系巨大IT資本が支援するプレイヤーへと急速にシフトしています。
米調査会社センサータワー(Sensor Tower)によると、世界で最もダウンロードされたフィンテックアプリとして、Googleの「Google Pay」と、ウォルマート傘下のインドEC最大手「Flipkart」の決済部門から独立した「PhonePe(フォンペ)」がトップ争いを繰り広げています。
両アプリは、インドのリアルタイム銀行決済インフラである「UPI(Unified Payments Interface)」決済件数の3分の2以上を占めており、これまでアリババグループ(Ant Group)の出資を受けて市場を牽引してきた「Paytm(ペイティエム)」はシェアを落とし、第3位に沈む結果となりました。
インドのデジタル決済の心臓部「UPI」とは
UPIは、インド準備銀行(RBI:中央銀行)主導のもと、インド決済公社(NPCI)によって開発された銀行間即時決済システムです。
従来のデビットカードやモバイルウォレットのように資金をいったんチャージする必要がなく、銀行口座間でスマートフォンを介して24時間365日、即時かつ手数料無料で送金・決済ができるのが最大の特徴です。銀行口座と携帯電話番号が紐づいた「バーチャル支払いアドレス(VPA)」を用いることで、極めて簡単な操作を実現しました。
UPIによる月間決済件数は、2017年8月時点ではわずか1,600万件でしたが、Googleが「Google Pay(旧Tez)」をローンチした直後から爆発的に急増。1年後には5億件、2020年初頭には月間9.5億件を超えるまでに急成長を遂げました。
送金とコミュニケーションの融合:WeChatモデルの追随
PhonePeは決済機能のさらなる利便性向上のため、中国の「WeChat Pay(微信支付)」をモデルにした、チャットベースの対人送金機能をアプリ内に統合しました。
これにより、ユーザーは他のメッセージングアプリ(WhatsAppなど)を立ち上げることなく、送金のリクエストや受領の確認を行いながら、アプリ内でシームレスにチャットのやり取りができるようになりました。PhonePeはさらにグループチャット機能を導入し、割り勘や共同購入の資金集めをより簡単にする計画を進めています。
かつて競合のPaytmも、同様のチャット決済機能「Inbox」を立ち上げ、写真や動画の共有機能まで実装しましたが、インフラの運用コストが高く、1年以内に閉鎖を余儀なくされました。
規制の壁に阻まれる巨大プレイヤー「WhatsApp Pay」
インドで圧倒的なシェアを持つメッセージングアプリ「WhatsApp(ユーザー数約4億人)」を展開するFacebook(現Meta)も、決済サービス「WhatsApp Pay」の本格導入を狙っていましたが、中央銀行(RBI)が定める「金融データはインド国内のサーバーにローカル保存しなければならない」というデータ・ローカリゼーション規制の壁に阻まれ、数年間にわたり限定テスト段階に留まり続けました。
これにより、規制要件をクリアして迅速に対応したGoogle PayとPhonePeが市場の先行利益(ファーストムーバー・アドバンテージ)を完全に掌握する結果となりました。
現在、インド国内でUPIを受け入れる小売店や小規模加盟店は1,000万店舗を突破しており、世界で最も急速に進むデジタル決済大国インドの市場争いは、PhonePeとGoogle Payによる二大巨頭時代を迎えています。
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