
中国の国家的な決済ネットワークを運営する中国銀聯(China UnionPay)は、2019年9月5日、商業銀行連合と展開するモバイル決済アプリ**「雲閃付(Yun Shan Fu/ユニオンペイ)」**のユーザー数が2億人を突破したと発表しました。
登録ユーザー数が1億人から2億人へと倍増するのに要した期間は、わずか10ヶ月。
モバイルインターネット全体の成長(トラフィック獲得効率)が鈍化していた当時の中国市場において、この突出した急成長を実現した戦略と、日本市場との構造的な違いについて解説します。
ネットユーザー飽和期における「逆行する急成長」
シンクタンクQuestMobileのレポートなどによると、2019年当時の中国のモバイルインターネットユーザー数は約11.3億人で頭打ちとなり、新規獲得(トラフィックのレッドオーシャン化)が大きな課題となっていました。
その中で「雲閃付」アプリが急速にユーザー数を伸ばした理由は、単なる広告プロモーションにとどまらない、**「既存の金融インフラとの圧倒的な垂直統合」**にあります。
全金融機関を横断する「クロスバンク」の利便性
特定の民間企業が決済口座とウォレットを囲い込むAlipayやWeChat Payとは異なり、「雲閃付」は中国のほぼすべての銀行を背後に従える唯一無二の公式アプリです。
- 対応銀行の拡大:全国500以上の銀行がシステム連携し、デビットカードの残高や取引明細をアプリ上で一括照会可能に。
- クレジットカード機能の統合:中国工商銀行、中国建設銀行、招商銀行など25の大手銀行が発行する180種以上のクレジットカードのオンライン即時発行申し込みに対応。140以上の銀行のカード請求書の返済手数料もすべて無料としました。
- 銀行窓口での強力なプッシュ:中国の主要銀行の窓口で新規口座開設やカード発行を行う際、行員がその場で「雲閃付」のインストールと初期設定をサポートする強力な顧客誘導ルートが機能しました。
全国50都市の「公共交通(スマートトラベル)」との連携
もう一つの強力な成長エンジンとなったのが、人々の日常的な移動手段である公共交通機関へのインフラ統合です。
例えば、成都市の地下鉄(6路線・156駅)や約1万4,000台のバスにおいて、「雲閃付」の共通乗車QRコードによる乗車サービスが開始されました。これを皮切りに、上海、広州、天津、南京、鄭州、杭州など、全国50以上の主要都市の公共交通機関で銀聯QRコード決済が順次導入されました。
日々の通勤・通学で毎日必ず使われる乗車コード機能と結びつくことで、アプリの起動率とアクティブユーザー数を飛躍的に引き上げることに成功しました。
日本の「Bank Pay」の苦戦と銀聯モデルの対比
日本のキャッシュレス市場との対比は、この「銀行連合決済アプリ」の成功要因をより浮き彫りにします。
日本でも2019年前後から、全国の主要銀行が連携してQRコード決済を行う仕組みとして「Bank Pay(バンクペイ)」や、ゆうちょ銀行による「ゆうちょPay」などが立ち上がりました。しかし、以下のような要因から普及には極めて苦戦しました。
- 仕様とアプリの分散:各銀行が独自の「〇〇Pay」アプリを個別に立ち上げ、ユーザー側から見て「どのアプリを入れれば良いのか」が非常に分かりにくかったこと。
- 大手民間Pay(PayPay等)の先行:強力なポイント還元と広告キャンペーンを張る民間企業に、利便性やお得感で太刀打ちできなかったこと。
一方、中国銀聯は「銀聯(UnionPay)」という一元化されたブランドのもと、全銀行の機能を1つのアプリ「雲閃付」に徹底的に集約し、国家的なインフラとしてプッシュしました。この**「分散させずに統一する」**という選択が、10ヶ月で1億人のユーザー上乗せという圧倒的な成果に結びつきました。
グローバル展開と日本市場への影響
「雲閃付」の普及は中国国内にとどまらず、日本、韓国、アメリカ、カナダなど世界30以上の国と地域の店舗でも利用可能となりました。
特に訪日中国人観光客が多く訪れる日本の百貨店、ドラッグストア、主要コンビニなどでは、「銀聯カード(磁気・IC)」の読み取りだけでなく、スマートフォン上の「銀聯QRコード」をスキャンする決済端末の導入が急速に進み、インバウンド獲得に欠かせない決済手段となりました。
2億人のユーザー獲得は、AlipayやWeChat Payに対抗する強力な「第3の決済インフラ」として機能していることを証明する画期的なマイルストーンとなりました。
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