2023年、中国発のコーヒーチェーン**Luckin Coffee(瑞幸珈琲/ラッキンコーヒー)**は驚異的な拡大を遂げ、店舗数および売上高の両面において、中国市場における絶対王者であったスターバックスを初めて追い抜きました。
かつて不正会計問題によるNASDAQ上場廃止という奈落の底を経験しながらも、デジタル技術を活用した革新的なビジネスモデルと経営改革により、見事なV字回復を果たしたラッキンコーヒー。同社が発表した2023年通期決算と、その裏にあるデータ駆動型のDX戦略に迫ります。
財務データで見るスタバ超えの実態
ラッキンコーヒーが発表した2023年12月期決算によると、年間の総純売上高は前年同期比87.3%増の**249億300万人民元(約5,000億円)に達しました。一方、スターバックス中国の同期間の売上高は31億6,000万米ドル(約4,700億円)であり、ラッキンが名実ともに中国最大のコーヒーチェーンの座を獲得しました。また、本業の儲けを示す通期の営業利益は、前年比でほぼ倍増となる30億2,600万人民元(約600億円)**を記録しています。
圧倒的な出店ペースと店舗ポートフォリオ
2023年の1年間で、ラッキンコーヒーは新たに8,034店舗を開設しました(前年比で約2倍)。2023年末時点における中国国内の総店舗数は16,218店舗に到達。その内訳は、直営店舗が10,598店舗(全体の約3分の2)、フランチャイズ(パートナー)店舗が5,620店舗となっています。
この超高速出店を可能にしているのが、「ピックアップ専用」に特化したスモールスタイルの店舗設計です。スターバックスのような「サードプレイス(快適な空間)」を提供する広いカフェスペースを持たず、数坪の極小スペースでテイクアウトやデリバリーのみに対応する店舗をドミナント展開することで、家賃と初期投資を最小限に抑えています。
デジタルプラットフォームがもたらす「データ駆動型」の店舗運営
ラッキンコーヒーの最大の特徴は、店舗に「レジが存在しない」ことです。
顧客は専用のモバイルアプリ、またはWeChat(微信)やAlipay(支付宝)のミニプログラムからのみ注文と決済を行います。この仕組みにより、以下の圧倒的なDXのメリットを享受しています。
- レジ待ちの完全解消と省人化:店舗スタッフは「コーヒーを淹れて渡す」作業のみに集中でき、接客やレジ締め、現金管理のコストがゼロになります。
- メニュー開発のアルゴリズム化:ラッキンは2023年の1年間で102種類もの新製品を投入しました。飲料の年間総販売量は19億杯を超え、そのうち「生椰ラテ(ココナッツラテ)」をはじめとする8つの定番メニューが年間1億杯を超える大ヒットとなりました。新製品の開発は、蓄積された膨大な購買データをもとに、牛乳やシロップ、各種フレーバーの相性をシステム上で数値化し、人気の組み合わせを予測して生み出されています。
- 高精度なユーザーライフサイクル管理:アプリ注文を通じて、顧客一人ひとりの嗜好や購入サイクルを蓄積。パーソナライズされたクーポンやプッシュ通知を自動配信することで、9,500万人以上の新規顧客を獲得し、累計取引顧客数を2億3,000万人にまで拡大しました。
競合「Cotti Coffee」との死闘と「9.9元」価格戦の功罪
ラッキンコーヒーの独走を阻むべく、激しい追い上げを見せているのが**Cotti Coffee(庫迪珈琲/コッティコーヒー)**です。Cotti Coffeeは、かつてラッキンコーヒーを創業したものの、会計不祥事によって同社を追放された陸正耀(チャールズ・ルー)氏と銭治亜(ジェニー・キアン)氏が2022年に立ち上げたリベンジブランドです。ラッキンの「完コピ」とも言える低価格・極小店舗モデルで急速に出店を加速しています。
Cotti Coffeeの低価格攻勢に対抗するため、ラッキンコーヒーは2023年夏より、毎週1杯のコーヒーをわずか**9.9人民元(約200円)**で飲める大規模な割引キャンペーンを開始しました。このキャンペーンは爆発的な顧客誘引力を見せましたが、一方で粗利率を圧迫し、販売・マーケティング費用の上昇という痛みを伴いました。
実際、2024年の春節(旧正月)明け以降、ラッキンは9.9元キャンペーンの対象商品を一部の人気メニューに限定するなど、割引範囲の調整に乗り出しました。これは、単なる安売りによる消耗戦を避け、店舗の収益性とユニットエコノミクスを担保するための軌道修正と見られています。
郭謹一CEOが描く「2万店」突破への展望
ラッキンコーヒーの郭謹一(ジョナス・グオ)董事長兼CEOは、「中国のコーヒー市場の浸透率は成熟国と比較してまだ低く、成長の余地は無限にある」と強気の見方を崩していません。
2024年、同社は店舗の収益管理を徹底しつつも、2万店舗の突破に向けたハイスピードな出店計画を継続しています。低価格な「9.9元」で呼び込んだライトユーザーを、データ分析によっていかに高い来店頻度を持つ「ロイヤルカスタマー」へと転換させ、高付加価値なオリジナルブレンドやサイドメニューへ誘導できるか。
単なる「格安コーヒーチェーン」ではなく、AIやデータ基盤をコアとした「コーヒーを提供するテック企業」としての真価が試されています。
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