2016年10月、AppleのCEOティム・クック(Tim Cook)氏が中国の深センで開催されたイノベーション関連イベントに出席しました。その際、現地での決済の様子をアピールするためか、クック氏は深セン市内のスターバックスを訪れコーヒーを2杯注文しましたが、そこで少し決まりの悪いトラブルが発生しました。
フォーマルなスーツ姿でレジカウンターに立ったクック氏は、レジにApple Payのマークがあるのを確認し、自身のスマートフォンでApple Pay決済を試みました。しかし、店舗の決済端末は決済を拒否。店員から「お支払いが受け付けられません」と告げられたクック氏は、困惑した表情を浮かべ、同行していた周囲のスタッフに助けを求めるという一幕がありました。
この決済拒否の原因は、グローバル標準のApple Payと中国版Apple Payの仕様の違いにあります。
中国で展開されているApple Payは、現地の事実上の決済独占インフラである中国銀聯(UnionPay)と提携し、そのネットワークおよび非接触IC決済端末規格「QuickPass(閃付)」を利用してNFC決済を実現しています。中国国内で稼働しているクレジットカードおよびデビットカードの決済端末は、すべて銀聯が策定した厳しい国内規格に準拠しており、基本的には銀聯ブランドのカードのみを受け入れる構造になっています。
クック氏が試みようとしたApple Payに紐付けられていたカードは、海外で発行された国際ブランド(VisaやMastercardなど)のものでした。中国のApple Payは銀聯のインフラをそのまま間借りしているため、システム上、海外ブランドのカードが登録されたApple Payでは決済を処理できない仕組みになっていたのです。クック氏の自社サービスを使ったパフォーマンスは、図らずも中国決済市場の極めてドメスティックな参入障壁を浮き彫りにする結果となりました。
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