中国が進めるデジタル人民元の実用化が、2022年開催の北京冬季オリンピックに向けた重要なロードマップに組み込まれていることが明らかになった。中国の中央銀行である中国人民銀行の易綱(イ・ガン)総裁が、国内の主要政府系金融メディア「金融時報(Financial News)」のインタビューで答えた。
総裁はインタビューの中で、「現在は広東省深圳、江蘇省蘇州、河北省雄安新区、四川省成都、および将来の冬季五輪開催シナリオにおいて、利用者を限定した閉鎖的かつクローズドな実証実験を実施している。2022年の北京冬季五輪期間中には、オリンピック会場内での実質的なテスト運用が模索されるだろう」と述べた。
具体的な本格運用のマイルストーンとして北京五輪のシナリオに公式に言及したのはこれが初めてとなる。デジタル人民元の正式なローンチ時期(スケジュール)は未定であると慎重な姿勢を崩していないものの、現在実施中の実証実験が成功すれば、世界中から選手団や観客が訪れる2022年の五輪会場で、本格的にデジタル法定通貨の流通が行われる可能性が現実味を帯びてきた。
外資系小売企業も巻き込んだ多様な試験運用
デジタル人民元の実証実験は、すでに市民の生活圏で着実に進められている。一部の現地報道によると、マクドナルドやスターバックス、サブウェイといった世界的に展開する大手外資系フードチェーンを含む19の小売企業が、試験運用の導入先パートナーとして招待されている。国家デジタル通貨(CBDC)の実用化を、小売りなどの最前線ユーザー接点からスピーディに落とし込む狙いだ。
デジタル通貨の開発は中国にとどまらず、フランスをはじめとする欧州連合(EU)の複数国などでも中央銀行主動のプロジェクトが進んでいる。ただし、多くは金融機関同士の決済効率化(ホールセール向け)に特化している。これに対して中国は、ブロックチェーンや暗号技術を国家的な戦略技術として位置づけ、市民の日常生活で流通する「現金代替(リテール向け)」のデジタルソリューションで世界を大きくリードしようとしている。
法的地位と「二重オフライン決済」という究極の差別化
中国人民銀行は、デジタル人民元を既存のマネタリーベースである「現金(M0)」の一種と定義している。銀行預金を裏付けとする民間の電子マネーとは異なり、デジタル人民元は法的な裏付けを持つソブリン通貨であり、店舗側は原則としてこれを受け取る義務がある。これにより、小売り現場における偽札犯罪の根絶や、現金流通に関わる金融機関の管理コストの大幅な削減が期待できる。
また、昨今の新型コロナウイルス流行に伴う衛生面への配慮から、「現金を介したウイルス伝染リスクを低減できる非接触型決済」としての有効性も、実用化の追い風となっている。
既存の巨大モバイル決済である「アリペイ(Alipay)」や「WeChat Pay(微信支付)」と比較した、デジタル人民元最大の技術的アドバンテージは「二重オフライン決済」機能である。アリペイやWeChat Payは、インターネットに接続されていない(携帯電話の電波が届かない)地下や災害時には決済が機能しない。これに対して、デジタル人民元はNFC(近距離無線通信)技術を活用しており、たとえ電波が途絶え、通信環境が壊滅した災害時であっても、スマートフォンの電源(バッテリー)さえ残っていれば、端末同士を物理的に「ぶつける(タッチする)」だけで、オフライン同士で安全に即時決済を完了させることができる。このレジリエンスの高さは、国家決済インフラとしての強力な強みとなっている。
出所:中国金融時報、中国人民銀行公式サイト
コメント
...