
💡 エグゼクティブサマリー (TL;DR)
- 770B総パラメータ・49B活性化・100万トークン文脈: 前世代Hy3(295B/21B/256K)から全面的にスケールアップ。MoE構成によりコスト効率を維持しつつ、100万トークンの超長大コンテキストを処理可能にしました。
- 163名専門家×203タスクの社内ブラインド評価で世界トップ水準の実力: テンセント社内の専門家163名が203件の実務タスクをブラインド評価。平均スコア2.99/4.0で、Kimi K3(2.94)およびGLM 5.3(2.92)をわずかに上回りました。
- 「生成して終わり」から「エラーを自動修正して納品する」へ: 経費精算審査、2Dゲーム開発、3Dレースゲーム制作の3つの実務テストにおいて、バグ検出→修正→再検証のイテレーションサイクルを自律的に回すエージェント能力を実証。
- Q2決算で約105億元(約2,200億円)のAI投資費用を開示: テンセントは2026年Q2決算で、混元・元宝・CodeBuddy・WorkBuddyなどのAI新事業がNon-IFRS営業利益に約105億元の純コスト影響を与えたと開示。AIインフラの配分優先順位を「自社モデル学習>製品推論>クラウド外販」と明示しました。
Hy3からHy4へ:何が変わったのか
8月28日、テンセント(Tencent:騰訊)は新世代の大規模言語モデル**「混元Hy4 preview」**の発表とオープンソース公開を同時に実施しました。
前世代Hy3は7月のリリース後、テンセントのオフィス・プログラミング・コンテンツ製品に即座に組み込まれ、API呼び出し量が1週間で前世代モデルの68倍に達するという爆発的な立ち上がりを見せています。Hy3の強みは「ハルシネーション(幻覚)の抑制」「ツール呼び出し精度の改善」「Webページ・表計算・コード・文書生成の実用品質化」という、実務面での着実な底上げでした。
Hy4 previewは、そこからさらに一段先へ踏み込みます。
📊 Hy3 → Hy4 preview スペック比較
| 項目 | Hy3 | Hy4 preview | 変化 |
|---|---|---|---|
| 総パラメータ数 | 295B | 770B | 2.6倍 |
| 活性化パラメータ | 21B | 49B | 2.3倍 |
| コンテキスト長 | 256K | 1M (100万) | 4倍 |
| API入力単価 | — | 6元/百万トークン(約130円) | コストパフォーマンス維持 |
| API出力単価 | — | 18元/百万トークン(約390円) | — |
| キャッシュヒット | — | 0.3元/百万トークン(約6.5円) | 高頻度呼び出しに最適化 |
| 投入先プロダクト | WorkBuddy, CodeBuddy, 元宝, ima | 左記全製品+テンセントクラウドTokenHub+OpenRouter | 即日同時展開 |
163名×203タスクのブラインドテスト:ベンチマーク数値の先にある実力
ここで注目すべきは、テンセントが公開した評価手法です。通常のAIモデル評価は公開ベンチマーク(MMLU、HumanEvalなど)のスコアで競いますが、Hy4 previewではテンセント社内の163名の専門家が、ソフトウェアエンジニアリング、オフィス業務分析、ゲーム開発、科学研究など203件の実務タスクに対してブラインド評価を実施しました。

結果は、Hy4 preview 2.99/4.0、Kimi K3 2.94、GLM 5.3 2.92。数値の差はわずかですが、評価対象が単なる「ベンチマーク問題」ではなく「実際の現場で遭遇する長いワークフロー」である点が重要です。
もう一つの注目点は、テンセントが「Hy4 previewは自身の学習手法・データ戦略・評価体系・低レベル演算子の最適化に初めて参加した」と公表したことです。複数回の実験を経て推論スループットがベースラインから31.8%向上したとされます。モデルが自己改善ループに参加する——これは大規模モデル開発の方法論そのものが進化しつつあることを示しています。
実務テスト①:12件の経費書類を3分で審査
極客公園(GeekPark)の検証テストでは、Hy4 previewに対し3つの段階的に難易度を上げた実務課題が出題されました。
最初のテストは**「模擬経費審査」**。6件の経費申請、2版の社内規定、予算台帳、3通の承認メール——合計12件の書類を読み込ませ、「全額承認」「減額承認」「差し戻し」の判断を求めます。
Hy4 previewは3分27秒でMarkdown形式の経費審査報告書を生成。6件・総額5,364元(約11.6万円)の申請に対し、承認4,294元、減額230元、差し戻し840元。数値は正確に計算されていました。
特筆すべきは、「申請書に直接添付されていない証拠を自ら探した」点です。
86元の深夜タクシー代の申請(RB-003)には、活動証明が添付されていませんでした。しかしHy4 previewは、メール添付ファイルからプロジェクト責任者が21:32に「会場でサプライヤー確認を完了してから退出してください。会議は22:15終了予定」と送信したメールを発見。移動記録が22:28に会場から帰社したことを突き合わせ、人物・場所・時間が整合すると判断して承認しました。
実務テスト②:32分でHTML5ゲームを開発、自らテストまで構築
2つ目のテストでは、既存のゲームエンジン(Phaser等)を使わず、HTML5 Canvas+TypeScriptだけで「大きな魚が小さな魚を食べる」ゲームを開発させました。
32分1秒後、Hy4 previewは以下を納品しています:
- 30.5KBの
game.tsとindex.html - ダブルクリックで起動する単一ファイル版
npm run buildによるパッケージング構成- 15項目のNode.jsロジックテスト + 14項目のChromiumブラウザE2Eテスト
ゲームを「生成して終わり」ではなく、テストスイートを自ら設計・実行し、バグを発見して修正するサイクルを自律的に回した点が目を引きます。
実際に発見・修正された問題の一例:
- 画面端から出現する魚の不自然な挙動: 境界判定ロジックが即座に魚を画面内に引き戻し、唐突に出現するように見えた。Hy4 previewは境界突破時にのみ跳ね返らせるロジックへ修正。
- 追尾時の「永久に追いつけない」不具合: マウス操作の自機が獲物に近づくと減速し、一定速度で逃げる獲物との間に20〜30px差が埋まらなかった。単純に自機速度を上げるのではなく、追撃時の最低速度保証と獲物の体力減衰メカニズムを導入して解決。
実務テスト③:Three.js 3Dレースゲーム——初回のエラーを自力で克服
最後のテストは最も高度な課題です。「一文の指示だけでThree.jsを使った3Dドローンレースゲームを作れ」という要求。雨の夜のコンテナ港、ネオンライト、3体のAI対戦相手、チェックポイント、ニトロ加速、リアルタイムランキングなどのフル機能です。

Hy4 previewの初回開発は1時間39分、27回のファイル修正を経て、14個のチェックポイント、164個のコリジョンボックス、GPU雨粒レンダリング、水たまりの反射エフェクト——まで実装しました。
しかし、最初の納品物は白画面でした。
モデルが生成したのはローカルサーバー依存のモジュール化プロジェクト。タスク終了後に一時サーバーが閉じると、index.htmlを直接開いてもブラウザのセキュリティ制限で読み込みに失敗します。コードは動くのに、手元では真っ白な画面になってしまうという問題です。
このフィードバックを返すと、20分8秒後にHy4 previewは一から書き直すのではなく、依存関係とバンドル方式だけを再構成して0.57MBの単一HTMLファイルを生成。サーバー不要で直接起動可能な状態に修正しました。
さらに、自己テスト中にブルーム(発光)エフェクトのしきい値(0.55)が低すぎて画面全体が白飛びする問題を発見。レンダリングパラメータを調整し、正常な夜景を復元しています。
「105億元のAI投資」の内幕:テンセントのコンピュート配分戦略
Hy4 previewの発表は、テンセントがAI投資を急加速させているタイミングと重なります。
2026年Q2決算において、テンセントは混元・元宝・CodeBuddy・WorkBuddy・小微などのAI新事業が、Non-IFRS営業利益に対して約105億元(約2,200億円)の純コスト影響をもたらしたことを開示しました。
同時に明示されたのが、AIインフラ・計算リソースの配分優先順位です:
- 最優先: 自社基礎モデルの学習(Training)
- 次点: WorkBuddy等の自社製品の推論需要
- 残余分: テンセントクラウドを通じた外部提供
この優先順位は、テンセントがクラウドAPIの単なる価格破壊競争に巻き込まれるよりも、まず自社プロダクト内でAIの付加価値を証明することを重視していることを示しています。
結論:「ベンチマーク王者」よりも「仕事を最後まで片付けるAI」へ
混元Hy4 previewが示したのは、中国における大型モデル競争の新しい勝負軸です。
パラメータ数やベンチマークスコアの最高値を競う段階から、「実務の長いワークフローを途中で放棄せず、エラーが出ても自己修正して最後まで納品できるか」——この「完遂力」が評価基準として浮上しつつあります。
テンセントの強みは、WeChat・WeCom(企業微信)・テンセント会議・テンセントドキュメントなど12億人以上が日常的に使うプロダクト群をモデルの実証環境として保有していることです。「会話するAI」から「仕事を引き受けるAI」への進化は、実際のビジネス現場で着実に加速しています。
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