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    「派手なデモより実務の精度」テンセント混元Hy4、AI開発の逆襲

    テンセントが混元Hy4 previewを発表・オープンソース公開。総パラメータ770B、100万トークン対応でWorkBuddyやCodeBuddyへ即日投入。163名の社内専門家盲検でKimi K3やGLM 5.3を上回る実務スコアを記録した新モデルの実力を検証する。

    🇯🇵 日本産業対照:
    ソフトバンクG(SBG) NTT(tsuzumi) NEC Sakana AI 世界水準: OpenAIAnthropic(Claude)Google Gemini
    「派手なデモより実務の精度」テンセント混元Hy4、AI開発の逆襲

    テンセントが8月28日に発表・オープンソース公開した混元Hy4 preview(出所:テンセント)

    1. Hy3からHy4へ:何が変わったのか

    8月28日、テンセント(Tencent:騰訊)は新世代の大規模言語モデル「混元Hy4 preview」の発表とオープンソース公開を同時に実施しました。

    前世代Hy3は7月のリリース後、テンセントのオフィス・プログラミング・コンテンツ製品に即座に組み込まれ、API呼び出し量が1週間で前世代モデルの68倍に達するという爆発的な立ち上がりを見せています。Hy3の強みは「ハルシネーション(幻覚)の抑制」「ツール呼び出し精度の改善」「Webページ・表計算・コード・文書生成の実用品質化」という、実務面での着実な底上げでした。

    Hy4 previewは、そこからさらに一段先へ踏み込みます。

    📊 Hy3 → Hy4 preview スペック比較

    項目Hy3Hy4 preview変化
    総パラメータ数295B770B2.6倍
    活性化パラメータ21B49B2.3倍
    コンテキスト長256K1M (100万)4倍
    API入力単価—6元/百万トークン(約130円)コストパフォーマンス維持
    API出力単価—18元/百万トークン(約390円)—
    キャッシュヒット—0.3元/百万トークン(約6.5円)高頻度呼び出しに最適化
    投入先プロダクトWorkBuddy, CodeBuddy, 元宝, ima左記全製品+テンセントクラウドTokenHub+OpenRouter即日同時展開

    混元Hy4 preview 実務基盤

    総770B/活性49B・100万トークン対応の産業級MoEモデル

    🧠

    超長大コンテキスト処理

    100万トークンの文脈窓により、数千ページの社内規定や複数リポジトリのコードベースを一括把握

    🔄

    自律テスト&自己修復

    コード生成と同時に自らE2Eテストを設計・実行し、白画面や描画バグを自律デバッグして完遂

    👥

    163名専門家ブラインド実証

    社内の第一線エンジニアによる203件の工学タスク評価で、平均2.99/4.0と実務最高水準を達成

    🌐

    全社プロダクト即日展開

    WorkBuddy、CodeBuddy、元宝、WeChat生態系へ即座に統合され、日量数千万リクエストを処理


    2. 163名×203タスクのブラインドテスト:ベンチマーク数値の先にある実力

    ここで注目すべきは、テンセントが公開した評価手法です。通常のAIモデル評価は公開ベンチマーク(MMLU、HumanEvalなど)のスコアで競いますが、Hy4 previewではテンセント社内の163名の専門家が、ソフトウェアエンジニアリング、オフィス業務分析、ゲーム開発、科学研究など203件の実務タスクに対してブラインド評価を実施しました。

    混元Hy4 preview社内ブラインド評価結果
    163名の社内専門家による203件の工学タスクブラインド評価スコア(出所:テンセント)

    結果は、Hy4 preview 2.99/4.0、Kimi K3 2.94、GLM 5.3 2.92。数値の差はわずかですが、評価対象が単なる「ベンチマーク問題」ではなく「実際の現場で遭遇する長いワークフロー」である点が重要です。

    もう一つの注目点は、テンセントが「Hy4 previewは自身の学習手法・データ戦略・評価体系・低レベル演算子の最適化に初めて参加した」と公表したことです。複数回の実験を経て推論スループットがベースラインから31.8%向上したとされます。モデルが自己改善ループに参加する——これは大規模モデル開発の方法論そのものが進化しつつあることを示しています。


    実務テスト①:12件の経費書類を3分で審査

    極客公園(GeekPark)の検証テストでは、Hy4 previewに対し3つの段階的に難易度を上げた実務課題が出題されました。

    最初のテストは「模擬経費審査」。6件の経費申請、2版の社内規定、予算台帳、3通の承認メール——合計12件の書類を読み込ませ、「全額承認」「減額承認」「差し戻し」の判断を求めます。

    Hy4 previewは3分27秒でMarkdown形式の経費審査報告書を生成。6件・総額5,364元(約11.6万円)の申請に対し、承認4,294元、減額230元、差し戻し840元。数値は正確に計算されていました。

    特筆すべきは、「申請書に直接添付されていない証拠を自ら探した」点です。

    86元の深夜タクシー代の申請(RB-003)には、活動証明が添付されていませんでした。しかしHy4 previewは、メール添付ファイルからプロジェクト責任者が21:32に「会場でサプライヤー確認を完了してから退出してください。会議は22:15終了予定」と送信したメールを発見。移動記録が22:28に会場から帰社したことを突き合わせ、人物・場所・時間が整合すると判断して承認しました。


    実務テスト②:32分でHTML5ゲームを開発、自らテストまで構築

    2つ目のテストでは、既存のゲームエンジン(Phaser等)を使わず、HTML5 Canvas+TypeScriptだけで「大きな魚が小さな魚を食べる」ゲームを開発させました。

    32分1秒後、Hy4 previewは以下を納品しています:

    • 30.5KBの game.ts と index.html
    • ダブルクリックで起動する単一ファイル版
    • npm run build によるパッケージング構成
    • 15項目のNode.jsロジックテスト + 14項目のChromiumブラウザE2Eテスト

    ゲームを「生成して終わり」ではなく、テストスイートを自ら設計・実行し、バグを発見して修正するサイクルを自律的に回した点が目を引きます。

    実際に発見・修正された問題の一例:

    • 画面端から出現する魚の不自然な挙動: 境界判定ロジックが即座に魚を画面内に引き戻し、唐突に出現するように見えた。Hy4 previewは境界突破時にのみ跳ね返らせるロジックへ修正。
    • 追尾時の「永久に追いつけない」不具合: マウス操作の自機が獲物に近づくと減速し、一定速度で逃げる獲物との間に20〜30px差が埋まらなかった。単純に自機速度を上げるのではなく、追撃時の最低速度保証と獲物の体力減衰メカニズムを導入して解決。

    実務テスト③:Three.js 3Dレースゲーム——初回のエラーを自力で克服

    最後のテストは最も高度な課題です。「一文の指示だけでThree.jsを使った3Dドローンレースゲームを作れ」という要求。雨の夜のコンテナ港、ネオンライト、3体のAI対戦相手、チェックポイント、ニトロ加速、リアルタイムランキングなどのフル機能です。

    混元Hy4 preview 3Dゲームテスト
    Hy4 previewが生成した3Dドローンレースゲーム「午夜港口」のデバッグ画面(出所:GeekPark検証)

    Hy4 previewの初回開発は1時間39分、27回のファイル修正を経て、14個のチェックポイント、164個のコリジョンボックス、GPU雨粒レンダリング、水たまりの反射エフェクト——まで実装しました。

    しかし、最初の納品物は白画面でした。

    モデルが生成したのはローカルサーバー依存のモジュール化プロジェクト。タスク終了後に一時サーバーが閉じると、index.htmlを直接開いてもブラウザのセキュリティ制限で読み込みに失敗します。コードは動くのに、手元では真っ白な画面になってしまうという問題です。

    このフィードバックを返すと、20分8秒後にHy4 previewは一から書き直すのではなく、依存関係とバンドル方式だけを再構成して0.57MBの単一HTMLファイルを生成。サーバー不要で直接起動可能な状態に修正しました。

    さらに、自己テスト中にブルーム(発光)エフェクトのしきい値(0.55)が低すぎて画面全体が白飛びする問題を発見。レンダリングパラメータを調整し、正常な夜景を復元しています。

    従来のベンチマーク至上主義

    • 単発プロンプトのスコア競争: MMLUやHumanEvalの正答率を競うが、実務の長大コンテキストで破綻
    • 生成して終わりの無責任さ: 初回コードにエラーや依存関係の欠落があると人間が手動でデバッグ
    • スタンドアロンの孤立: 業務ソフトウェアや既存ツールチェーンと接続されず実験室にとどまる

    混元Hy4 previewの実務完遂力

    • 長大な多工程ワークフロー走破: 複数書類の突き合わせからE2Eテストスイート自律構築まで完走
    • 自律デバッグと自己修復: 白画面やレンダリング不具合のフィードバックを即座に解析し再納品
    • 12億人エコシステムへの実戦統合: WeChat・WeCom・WorkBuddyで日量数千万人が日常活用

    6. 「105億元のAI投資」の内幕:テンセントのコンピュート配分戦略

    Hy4 previewの発表は、テンセントがAI投資を急加速させているタイミングと重なります。

    2026年Q2決算において、テンセントは混元・元宝・CodeBuddy・WorkBuddy・小微などのAI新事業が、Non-IFRS営業利益に対して約105億元(約2,200億円)の純コスト影響をもたらしたことを開示しました。

    優先度 1: 最優先

    自社基礎モデルの学習(Training)

    次世代フラッグシップモデルとマルチモーダル基盤の研究開発へ最優先でGPU計算資源を配分。

    優先度 2: 次点

    自社プロダクトの推論需要(Inference)

    WorkBuddy、CodeBuddy、元宝、WeChatなど、社内および自社コンシューマー製品の高頻度推論を担保。

    優先度 3: 残余分

    テンセントクラウドを通じた外部外販

    単なるAPI価格破壊競争に巻き込まれず、自社プロダクトでの価値実証を経てエンタープライズ顧客へ提供。

    この優先順位は、テンセントがクラウドAPIの単なる価格破壊競争に巻き込まれるよりも、まず自社プロダクト内でAIの付加価値を証明することを重視していることを示しています。


    7. 結論:「ベンチマーク王者」よりも「仕事を最後まで片付けるAI」へ

    混元Hy4 previewが示したのは、中国における大型モデル競争の新しい勝負軸です。

    パラメータ数やベンチマークスコアの最高値を競う段階から、「実務の長いワークフローを途中で放棄せず、エラーが出ても自己修正して最後まで納品できるか」——この「完遂力」が評価基準として浮上しつつあります。

    テンセントの強みは、WeChat・WeCom(企業微信)・テンセント会議・テンセントドキュメントなど12億人以上が日常的に使うプロダクト群をモデルの実証環境として保有していることです。「会話するAI」から「仕事を引き受けるAI」への進化は、実際のビジネス現場で着実に加速しています。

    「AIの大規模モデルは、単に会話を楽しむチャットボットで終わってはならない。真の勝負は、実体経済のあらゆる産業シーンにおいて、複雑な業務を最後までミスなく自律的にやり遂げられるかどうかにかかっている」
    —— 馬化騰(Pony Ma), 騰訊(Tencent)董事会主席兼CEO

    なお、同領域における産業構造の転換については、本誌が先に検証した「人間より速くバグを直せ」KimiとDeepSeekの開発戦および「コードを全開放しろ」テンセント混元、動画AI無料の裏側の分析もあわせて参照されたい。

    参考資料・情報元

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    執筆・編集:中国テック番犬 編集部

    孔明合同会社(KongMing LLC)/ 先端技術リサーチチーム
    10年の取材実績

    中国決済黎明期から10年以上の取材実績を持つ金融DX実務家、元IBMのエンタープライズITアーキテクト、外資系戦略コンサルティングファーム出身のビジネスアナリスト、およびAI・先端テックスタートアップ陣によって構成される専門リサーチ集団。現地の公式発表・法定開示・登記・特許・学術論文を直接精査し、日本の産業界へ向けて構造的で偏りのない客観インサイトを発信しています。

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