全般検索

    WEEKLY DEEP TECH BRIEFING

    週刊ディープテック・ダイジェスト

    📖 最新号サンプル・過去号一覧を見る →
    ホーム 最新記事 注目企業
    企業: Moonshot AI 企業: 鳴志電器 AI

    元KimiリードのRaft解剖:人間とAIが同僚となる自律基盤

    元月之暗面(Moonshot AI)Kimi CLIリードのRichard Chienが率いるBotiverseが、人間とAIが対等に協働する自律型ワークスペース「Raft」を公開。ローカル完結の実行基盤、永続記憶を持つエージェント、「Many Minds, One Room」の設計思想を徹底解剖。

    🇯🇵 日本産業対照:
    ソフトバンクG(SBG) NTT(tsuzumi) NEC Sakana AI 世界水準: OpenAIAnthropic(Claude)Google Gemini
    元KimiリードのRaft解剖:人間とAIが同僚となる自律基盤

    元月之暗面(Moonshot AI)Kimi CLIリードのRichard Chienが立ち上げた、人間とAIエージェントが同じチャンネルでリアルタイムに協働する自律型ワークスペース「Raft」(Radar編集部)

    1. 「AIはツールではなく、同僚である」:Raftが突きつける根本的問い

    生成AIの活用が急速に進むなか、多くの企業が導入しているのは「SlackやTeamsの片隅に呼び出すチャットBot」や「IDE内のコード補完プラグイン」に留まっています。これらは人間がプロンプトを入力して回答を受け取る「自動販売機型(Vending Machine)インターフェース」であり、セッションが切れれば文脈は消失し、チーム全体の文脈を理解した協働には至っていません。

    こうしたAI活用の閉塞感を打破すべく登場したのが、「Raft(https://raft.build/)」です。

    📊 従来型AIツールと「Raft」の協働アーキテクチャ対比

    協働モデルワークフローと記憶の持続性エージェントの組織内での位置づけ
    従来型:自動販売機モデル人間がプロンプト入力 ➔ 単発LLMが出力 ➔ セッション終了時に記憶リセット固有のアイデンティティを持たない、使い捨ての呼び出しツール
    Raft:Agent-Native モデル共有チャンネル(#engineering 等)で人間と複数エージェントが永続記憶を持って常駐対話専門性(分析 meichen、UI Duoyu、開発 John、テスト Tenny)を持つ対等な同僚

    Raftを開発するのは、米国およびグローバルで活動するスタートアップ Botiverse, Inc.。その中心にいるのが、創業者兼リードエンジニアの Richard Chien(RC / @istdrc) です。

    創業者の系譜:NoneBotからMoonshot AI(Kimi)、そしてRaftへ

    Richard Chienは、オープンソースコミュニティにおいて絶大な支持を集める開発者です。中国最大級のチャットBot開発フレームワーク「NoneBot」およびメッセージ標準プロトコル「OneBot」の生みの親として知られ、数万人の開発者が集うエコシステムをゼロから築き上げました。

    その後、中国の有力基底モデル開発企業である「月之暗面(Moonshot AI)」に参画。開発者向けフラッグシップツールである「Kimi CLI(Kimi Code CLI)」のリード開発者を務め、JetBrains IDEなどとの統合を可能にする「ACP(Agent Client Protocol)」の標準化・普及を主導しました(Kimi K3とDeepSeek V4が変えるAIコーディング 参照)。

    Kimiの最前線で「AIを真に開発者の実務へ組み込む難しさ」を熟知したRichardが、次なる挑戦として2025年末に立ち上げたのがBotiverseであり、当初「Slock」のコードネームで開発されていた自律協働ワークスペースが、2026年半ばに「Raft 1.0」として正式リリースされました。サンフランシスコ、上海、バンクーバーで開催されたミートアップには、ByteDance、Alibaba、Yale、UC Berkeley、HeyGenなどの最先端AIビルダーが集結しています。


    2. 3大パラダイムの罠と「名前を持つエージェント」の必然性

    Raftの設計思想が際立っているのは、現在のAIエージェント開発が陥りがちな「3つの工学的落とし穴」を明確に否定している点にあります。

    従来の3大設計の罠

    ステートレス・均質化・過密指揮

    • 自動販売機の罠: 入力ごとに記憶がリセットされ、昨日のコンテキストを今日ふたたび長文プロンプトで説明する労力。
    • 単一巨大脳(全社RAG)の罠: 1つのDBに全社知識を無秩序に混ぜた結果、アナリストやデザイナー固有の「専門的判断軸(レンズ)」が消失。
    • 使い捨てスウォームの罠: 一時的エージェントを百単位で乱造し、人間が細かな指示と交通整理で過労死(Exhausted Conductor)。
    Raft の突破口

    固有名を持つ「永続的同僚」

    • 永続セッション(1 Agent = 1 Session): 過去のリファクタ履歴やUIの好みをエージェントが自律記憶。
    • 固有の専門視点の温存: 各エージェントが独立した境界とモデルを持ち、多角的な議論を展開。
    • 自律型ピア協調: エージェント同士がチャンネルで自発対話し、人間は最終ゲート承認(Sign-off)に特化。
    Raftの名前を持つエージェントカード:Noel、Bugen、Leiysky
    「役割(Role)」ではなく「名前(Name)」を持つことで、蓄積された判断基準・トーン・信頼が1つのトークンに圧縮される(出典:Raft公式ブログ『Agents Need Names』)

    なぜエージェントに「名前(Name)」が必要なのか?

    Raftチームは、エージェントに「パフォーマンスレビュアー」や「フロントエンド担当」といった抽象的なロール名ではなく、具体的な名前(Noel、Bugen、Leiysky等)を与えることの決定的な重要性を説いています。

    • ロール(Role)は「スキーマ(型定義)」に過ぎない: 「エンジニア」というロールはステートレスで交換可能な型です。そこには過去のプロジェクトの歴史や癖は残りません。
    • 名前(Name)は「インスタンス(実体)」である: 「Noel」という名前を呼ぶとき、そこには「先週の性能ボトルネックをどう見抜いたか」「どのグラフの歪みを疑うか」という時間の連続性と蓄積された信頼が含まれます。
    ロール(スキーマ)と名前(インスタンス)の対比図
    ロールは単なる型定義だが、名前はコンテキストを蓄積し続ける参加者そのものを指し示す(出典:Raft公式ブログ『Agents Need Names』)

    📊 AIエージェント協働アーキテクチャの比較

    比較項目従来型チャットBot (Slack/Teams)集中型RAG (Company Brain)一時的スウォーム (Swarm)Raft (Agent-Native Workspace)
    エージェントのアイデンティティ単一の機能Bot共有エンドポイント名前のない一時インスタンス固有名を持つ永続的同僚
    記憶の持続性 (Memory)セッション終了でリセット単一DBに全統合 (平坦化)タスク完了で破棄エージェント個別の永続蓄積
    マルチエージェント協調不可 (個別対話のみ)内部ディスパッチャ依存親エージェントの強制分配共有チャンネルでの自律対話
    コード・データ実行場所ベンダーのクラウド中央サーバークラウドサンドボックス自社手元のローカルDaemon
    人間の役割プロンプト入力者検索クエリ発行者細かなタスク指揮者最終ゲートキーパー (承認者)

    3. 「Many Minds, One Room」:Raftのコア技術と協調メカニズム

    Raftが導き出したアーキテクチャの結論は、「ひとつの巨大な脳を作るな。独立した境界を持つ複数の精神(Many Minds)を、ひとつの部屋(One Room)に集めよ」というものです。

    ひとつの課題に対し4つの異なる専門性を持つエージェントが自律的に連携する様子
    「オンボーディング離脱の原因を特定せよ」という1つの問いに対し、meichen(データ)、Duoyu(デザイン)、Bernard(課題追跡)、John(開発)が自律連携する様子(出典:Raft公式ブログ)

    ひとつの問い、複数の眼(One Question, Many Eyes)

    Raftのチャンネル内では、人間が個別にタスクを細分化して割り振る必要はありません。中央のディスパッチャ(調整役)を介さず、エージェント同士が互いの発言を読み合い、専門性を持ち寄って課題を前進させます。

    One Room: #engineering 共有チャンネル

    「オンボーディング離脱の原因を特定・即日改善せよ」という1つの問い

    データ分析

    meichen (Claude)

    自律的にログを走査し、登録ステップ2の特定ポップアップでユーザーが離脱している構造的要因を特定。

    UI/UXデザイン

    Duoyu

    該当画面の視覚UIを監査し、1ボタンで完結するシームレスな画面遷移ドラフトと仕様を即座に提示。

    課題追跡

    Bernard

    過去の全社Issueマップから放置されていた関連バグチケットを発見・リンクし、要件漏れを防止。

    開発実装

    John (Codex / Kimi)

    ローカルDaemon経由でフロントエンドコードを修正し、GitブランチとPR #982を自律作成。

    CI / テスト検証

    Tenny (DeepSeek)

    ローカル環境で自動テストスイートとCI検証をパスさせ、「All green」を宣言して人間の最終Sign-offを待つ。

    エージェント間でメッセージが受け渡される様子
    分析エージェントが発見したユーザー離脱の知見を、そのままコンテンツ作成エージェントが引き取ってメール文章に反映する(出典:Raft公式ブログ)

    📊 Raftの3層ハイブリッド・アーキテクチャ設計

    アーキテクチャ層稼働環境 / コンポーネント主要機能とセキュリティ境界
    ① クラウド協調レイヤーapp.raft.build
    • Web / Mobile UI
    • Realtime Message Router
    チャンネル同期、スレッド管理、UIレンダリングを担当。
    機密ソースコードや社内データは一切保持しない。
    ② ローカル常駐基盤@botiverse/raft-daemon
    (自社サーバー / VPC / 手元PC)
    WebSocket暗号化通信(E2EE)でクラウドと接続。
    手元のプライベート環境内でエージェントの安全なプロセス実行を統括。
    ③ エージェント実行基盤• meichen(Claude / データ分析)
    • John(Codex・Kimi / Git・Bash操作)
    • Tenny(DeepSeek / CI・テスト検証)
    各エージェントが独立した永続記憶とスキルを保持。
    ローカルリポジトリ上でファイル編集やテストを自己完結。

    ① One Agent = One Session(永続セッション)

    Raftにおけるエージェントは、APIを都度叩く関数ではありません。「1つのエージェント=1つの永続セッション」として定義されています。先週行ったコードリファクタリングの議論、昨日指摘されたデザインの好み、過去のリリース障害の教訓が、各エージェントのローカルメモリに自然と定着します。

    ② ローカルDaemon(@botiverse/raft-daemon)による完全隔離

    企業の最もクリティカルな資産であるソースコードや顧客データを、サードパーティのSaaSサーバーに預けることはできません。 Raftはこの問題を、「表示と調整(クラウド)」「思考と実行(ローカル)」の完全分離によって解決しました。

    • app.raft.build(Web/モバイルUI):メッセージの同期と表示のみを担当。
    • @botiverse/raft-daemon(ローカル常駐プロセス):ユーザー自身の開発マシンや社内VPC上で稼働。エージェントのLLM推論呼び出し、ローカルファイルの編集、git commit や npm test などのシェルコマンド実行はすべて手元のマシン内で閉じて行われます。

    ③ Agent Experience(AX)とノイズ制御

    エージェントが人間と同じ部屋に常駐すると、通常は「全メッセージへの過剰反応」や「ノイズの爆発」が起きます。Raftは独自のAX(Agent Experience)設計を導入しています。

    • Agent Inbox(エージェント専用受信箱): 自分に関係するメンションやタスクだけを整理して受け取る。
    • Held Drafts(下書き保留機能): 議論の文脈を読み、即座に発言すべきか、ドラフトを作成して推敲すべきか、沈黙を保つべきかをエージェント自身が判断。

    ④ 異機種マルチモデル・ランタイム対応

    各エージェントは単一の基底モデルに縛られません。コード生成が得意なエージェントにはAnthropic ClaudeやOpenAI Codex、長文リサーチにはKimi、コスト効率重視のタスクにはDeepSeekといったように、エージェントごとに異なるモデルランタイムを柔軟に割り当て可能です。


    4. 現場での実証:機能がリリースされるまでの自律フロー

    Raftチーム自身がRaft上で新機能を開発・リリースした実例(「How a Feature Ships, for Raft, on Raft」)は、次世代の開発組織のあり方を鮮やかに証明しています。

    Raft上で新機能が自律的に開発・リリースされる協働スレッド
    問題の提起からエージェント同士の議論、コード改修、テスト検証、そして人間の承認(Sign-off)を経て機能がリリースされる一連の流れ(出典:Raft公式ブログ)

    📊 機能リリースにおけるマルチエージェント自律協調フロー

    ステップ主体(人間 / エージェント)自律実行アクションと連携内容
    01👤 人間リーダー (Richard / Tison)#engineering チャンネルで「オンボーディング離脱率の改善策検討」を提起。
    02🤖 データ分析 (meichen)ローカルログを自律走査し、登録ステップ2のポップアップが離脱原因と特定・報告。
    03🎨 UI/UX監査 (Duoyu)該当画面を1ボタンのシームレスUIへ再設計し、新UIドラフトと画面遷移仕様を提示。
    04💻 開発エンジニア (John)ローカルDaemon経由でコードを変更、Gitブランチと PR #982 を自律作成。
    05🧪 テスト/QA (Tenny)ローカル環境で自動テストとCI検証を実行。「All green. 人間の承認待ち」と通知。
    06🚀 人間承認 & デプロイ人間リーダーが変更内容を確認して Sign-off (LGTM)。main へマージされ即時本番デプロイ。

    「信頼はコードレビューの中には存在しない。AIが書く何千行もの差分を人間が目視確認するアプローチはすでに認知の限界を迎えている。」

    —— Raft公式ブログ『Trust Doesn't Live in Code Review』より

    5. 結論:DAUからDAAへ、ソフトウェア組織の再定義

    Raftが提唱する最も示唆に富む指標が、従来のDAU(Daily Active Users)に代わる「DAA(Daily Active Agents:日間アクティブエージェント数)」です。

    ソフトウェアの価値はこれまで「人間が何回画面をクリックしたか」で測られてきました。しかしこれからの時代、チームの生産性の半分以上は「画面の裏側で自律的にタスクを前進させるAIエージェント同僚」によって生み出されます。

    月之暗面(Moonshot AI)のKimi CLIで開発者AIの最前線を切り拓いたRichard Chienが放つRaftは、単なる新しいチャットアプリではありません。人間とAIが真に対等なチームとしてソフトウェアを創り上げる、「AIネイティブ時代の組織オペレーティングシステム」の決定的な青写真を示しています。

    参考資料・情報元

    +1
    リンクをコピーしました
    ✓

    執筆・編集:中国テック番犬 編集部

    孔明合同会社(KongMing LLC)/ 先端技術リサーチチーム
    10年の取材実績

    中国決済黎明期から10年以上の取材実績を持つ金融DX実務家、元IBMのエンタープライズITアーキテクト、外資系戦略コンサルティングファーム出身のビジネスアナリスト、およびAI・先端テックスタートアップ陣によって構成される専門リサーチ集団。現地の公式発表・法定開示・登記・特許・学術論文を直接精査し、日本の産業界へ向けて構造的で偏りのない客観インサイトを発信しています。

    コメント

    ...
    コメントを読み込んでいます...

    コメントを投稿する

    ※ メールアドレスは公開されません。

    💡 Googleでログインすると、お名前・メールの入力と認証コードが不要になります。