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    「WAIC 2026」が開くAIエージェントとロボット新時代

    上海で開催されたWAIC 2026は、AIモデルの性能競争から、実社会での稼働を目指す「実用化」へのシフトを決定づけました。国産チップからエージェントOS、そして人型ロボットの量産まで、フルスタック統合の現在地をレポートします。

    「WAIC 2026」が開くAIエージェントとロボット新時代
    WAIC 2026 Shanghai Main Exhibition
    WAIC 2026上海メイン会場で展示された国産AIチップと超大型計算クラスタ(出所:WAIC 2026公式展示資料)

    2026年7月17日、上海で「世界人工知能大会(WAIC 2026)」が幕を開けました。今年のテーマは「スマートパートナー、共に創る未来」。1,100社以上の企業が参画し、3,000点を超える最先端技術や製品が出展されるなど、最大規模に達しています。

    開幕から2日間で明確になった本大会の最大の潮流は、従来の「大規模言語モデル(LLM)のベンチマーク性能競争」の終焉と、実社会で自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」、物理世界で稼働する「具身AI(人型ロボットなどの実体を持つAI)」への完全な実用化シフトです。

    本稿では、大会初日から浮上した核心的なニュースと業界のトレンドを、「ソフトウェア(OS・モデル)」「物理ハードウェア(ロボット)」「インフラ(半導体・計算リソース)」の3つのレイヤーから総括レポートします。


    1. ソフトウェアの地殻変動:OSレベルへの浸透と「AIエージェント」端末の台頭

    従来の対話型チャットボットとしてのAI利用から、ユーザーの指示を自律的に判断して複数のアプリケーションを操作する「AIエージェント」への移行が、OSや端末レベルで本格化しています。

    • 阶跃星辰(StepFun)の「Step AOS」と「STEPX Neo」: 階跃星辰は、AIエージェントの動作を前提として設計された専用OS「Step AOS」と、世界初のAIエージェント原生のスマートフォン「STEPX Neo」を発表しました。この端末は、システムが通信、ファイル、アプリなどを原子化されたモジュールとして管理し、AIエージェント(階跃Amoo)がユーザーの代わりにタスク(旅行予約やデータ整理など)を自律実行します。「端云多脑体系」と呼ばれるオンデバイスとクラウドの協調システムにより、軽微なタスクはデバイス端モデル(Step Edge)が処理し、複雑な推論はクラウド側で処理するハイブリッド構成をとっています。
    • MiniMaxの「M3」と「H3」: MiniMaxは、自研の「MSA(稀疏注意力)アーキテクチャ」を採用したフラグシップモデル「MiniMax M3」を発表。これにより長文テキストの処理コストを劇的に抑えつつ、最高100万トークンの文脈窓を確保し、プログラミングや複雑なエージェントの追従能力を強化しました。さらに、テキスト、画像、動画、音声を処理する次世代マルチモーダル生成モデル「H3」のプレビューも行われました。
    • 月之暗面(Moonshot AI)の「Kimi K3」: 同社は2.8万億パラメータという巨大な規模を持つオープンソースモデル「Kimi K3」を発表しました。これは100万トークンの文脈窓とネイティブの視覚理解能力を備え、LatentMoEアーキテクチャと「Kimi Delta Attention (KDA)」を組み合わせて、プログラミングや高難度推論を高速化しています。7月27日にオープンソース化される予定です。
    • メガテック大手の動き(テンセント・バイトダンス・百度)
      • テンセント(腾讯)は、新モデル「混元 Hy3」をベースにしたOSレベルのAIアシスタント「Marvis」や、職場向けの「WorkBuddy」を出展しました。
      • バイトダンス(字节跳动)は、デバイス端の豆包モデルを搭載した第二世代AIスマホ「NaviX Ultra」(中興ヌビアと共同開発)の量産体制(約20万台規模)を発表しました。
      • 百度は、ノーコードでエージェントを構築できる「秒哒」や「百度搭子」、マルチエージェント型デジタル人プラットフォーム「百度一镜」を公開しました。

    2. 物理世界への進出:「人型ロボット(具身AI / Embodied AI)」の量産と現場実装

    展示ホールH3は具身AI(実体を持つAI)一色となり、300台を超える人型ロボットや稼働アームが展示されました。ロボットたちは単なる展示用パフォーマンスを超え、実際の自動車組み立てラインやスマート薬局を模した環境での作業実演を行いました。

    • 智元ロボット(AGIBOT): 等身大のサービス向け「遠征A3 Ultra」、産業向けのフラグシップモデル「G2 Max」、教育向けの「X2 Edu」をラインナップ。特に、人間の手に匹敵する繊細な動作を可能にする「OmniHand 3 Ultra-M」霊巧手システムは、人型ロボットの社会実装を大きく近づけました。
    • 傅利葉智能(Fourier Intelligence): 「Embodied Home」構想のもと、車輪型双腕「GRW」、小型「GR Mini」、デスクトップ「GR Nano」などを展示し、家庭や軽作業向けのスマートロボット網を提示しました。
    • 宇樹科技(Unitree): 二足歩行と四輪走行を切り替え、物資や人員を輸送できる「GD01」を出展し、製造や物流現場における即戦力としての機能を示しました。
    AGIBOT G2 Lineup at WAIC 2026
    智元ロボット(AGIBOT)が展示した人型ロボット「G2 Max」などのラインナップ(イメージ:Radar編集部)

    3. インフラの垂直統合:国産AI半導体と超大規模計算リソース集群

    米中摩擦の長期化に対応し、中国のAI企業は「シリコン(半導体)からエージェント(ソフトウェア)」までを国内技術で完結する垂直統合スタックの確立をアピールしました。

    • ファーウェイ(華為技術)「Atlas 950 SuperPod」: 最大50万枚のアクセラレータカードを連結して稼働できる超大型計算集群「SuperCluster」のビルディングブロックとして「Atlas 950 SuperPod」をデビューさせました。これは、兆パラメータ規模の大規模モデルの学習と超高並行推論に耐える、業界最大の商業スーパーノードです。
    • 中科曙光「曙光8000 登峰」: 国内初となる全国産の10万GPUクラスター規模のAI超巨大クラスターを発表。半導体チップから計算、高密度ストレージ、网络まで、すべてを国産の技術で構成しています。
    • 東方算芯(Dongfang Suanxin)「DF1000」: 世界初となる近存計算(ニアメモリコンピューティング)3Dチップを発表。14nmプロセスを用いながら、設計革新によって4nmプロセス相当の推論電力能率比を達成し、最先端プロセス技術の制約を回避する新たなマイルストーンを築きました。

    4. 編集部解説:日本市場が注視すべき「物理的・ソフトウェア的サンドボックス」

    今回のWAIC 2026の動向は、日本企業にとっても重要な視座を提供しています。

    日本のDXでは、いまだに生成AIを「チャット画面を介したデスクワークの要約・生成アシスタント」として導入し、既存のRPA(WinActorなど)との機能重複や生産性向上への限定的な寄与に頭を悩ませる段階にとどまっているケースが目立ちます。

    しかし、WAIC 2026が示した潮流は、その先を行く「全スタック統合」です。大規模モデルをオペレーティングシステム(Step AOS)そのものとして再定義して既存ソフトを裏側で自律操作させ、さらにそれを物理的な人型ロボット(AGIBOTなど)や自動化工場に組み込むことで、現場のリアルな作業を代替し始めています。

    少子高齢化による圧倒的な労働力不足に直面する日本にとって、AIエージェントがソフトウェア業務を肩代わりし、人型ロボットが一次産業や物流・工場の現場を支える中国の実験場は、最も先行する「物理的・ソフトウェア的サンドボックス」です。私たちはこの急速な実装と試行錯誤の結果を客観的に観察し、自国の産業やDXプロセスへと大胆に取り入れていく必要があります。

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