
欧州の電気自動車(EV)需要が伸び悩む中、欧州の大手自動車グループであるステランティス(Stellantis)は余剰生産設備の有効活用を模索しています。一方で、追加関税などの法規制を回避しつつグローバル展開を急ぐ中国の新興EVメーカーは、欧州現地での生産基盤の確保に注力しています。両者が手を組めば、資本と生産リソースの相互補完が期待できますが、その実現には法規制やタイミングなど複数の課題が存在します。
ステランティスの財務圧迫と欧州過剰生産の現実
ステランティスは、かつて積極的なEVシフトを掲げていましたが、市場のEV需要減速により厳しい経営状況に直面しています。同社が2022年に発表した長期戦略『Dare Forward 2030』では、欧州全工場を電動化し、75車種以上のEVを市場に投入する計画でした。
しかし、AlixPartnersなどの調査によると、欧州工場の稼働率は一時45%程度まで落ち込んでいます。低稼働が続くと莫大な固定費が財務を逼迫させます。一般的に、欧州で大型工場を閉鎖・再編するには、約15億ユーロ(約2,500億円)の費用と1〜3年の期間が必要とされており、単なる閉鎖は容易ではありません。そのため、余剰設備を中国メーカーなど外部のパートナーに提供して稼働率を改善させるアプローチが現実味を帯びています。
零跑(Leapmotor)との合弁に見る協業の先行事例
ステランティスはすでに、中国新興EVメーカーの零跑(リープモーター/Leapmotor)との間で革新的な協業を開始しています。両社は共同で「Leapmotor International」(ステランティスが51%、零跑が49%出資)を設立しました。
この枠組みのもと、ステランティスはスペインのサラゴサ(Zaragoza)工場やマドリードのビヤベルデ(Villaverde)工場などの既存設備を活用し、零跑ブランドのC-SUV「B10」などの生産を計画しています。既存の生産ラインを活用することで、零跑はEUによる中国製EVへの追加関税を回避でき、ステランティスは稼働率の向上と資金回収を図るという、極めて合理的な相互補完関係が築かれています。
小米(Xiaomi)と小鵬(XPeng)の異なるアプローチ
零跑がステランティスとの合弁スキームを選択した一方で、他の中国大手各社は異なる戦略をとっています。
小米(シャオミ):2027年参入へ向けた慎重なアプローチ
小米は2027年の欧州販売開始に向けて着実に準備を進めています。2025年9月にはドイツ・ミュンヘンにEVの研究開発(R&D)およびデザインセンターを設立し、欧州の規格やインフラ、顧客ニーズへの適合を図っています。小米は豊富な資本力を背景に持ちつつも、まずは高級モデルでの市場テストを重視しており、欧州での大規模な自社生産体制の構築には慎重です。既存の生産委託やアライアンスの活用が今後の大黒柱となります。
小鵬(シャオペン/XPENG):現地生産拡大とパートナーシップの模索
小鵬はこれまでオーストリア・グラーツにある受託製造大手マグナ・シュタイア(Magna Steyr)の工場を活用するなどして現地生産体制を模索してきました。さらに同社は、すでに資本提携関係にあるフォルクスワーゲン(VW)グループ(VWが小鵬の株式5%を保有)の欧州における余剰工場を活用した委託生産についても協議を進めていると報じられています。ただし、欧州の「産業加速法(Industrial Accelerator Act)」といった新たな法規制により、技術移転や出資比率の制限が生じるリスクもあり、慎重な交渉が求められています。
主要メーカーの欧州生産・提携戦略まとめ
| 企業名 | 主要戦略と予想される影響 | 提携・生産のステータス |
|---|---|---|
| ステランティス | 余剰工場の提供を通じて稼働率を向上。財務健全化とEV生産基盤の維持を狙う。 | 零跑(Leapmotor)との合弁事業を通じてスペイン工場での受託生産を開始。 |
| 零跑 (Leapmotor) | 合弁を通じてステランティスの生産基盤をフル活用。欧州の関税を回避し迅速に市場展開。 | 「Leapmotor International」を主導し、B10モデルなどの現地生産を推進。 |
| 小鵬 (XPENG) | VWとの既存の提携関係などを生かした現地生産を模索。コスト削減と法規制対応を目指す。 | マグナでの委託実績に加え、VWグループの工場活用を視野に交渉中。 |
| 小米 (Xiaomi) | 2027年の参入に向け、R&Dセンターを中心に現地適合化を優先。初期投資を抑える方針。 | ミュンヘンにR&Dセンターを開設。当面は高級車によるテスト販売から開始予定。 |
まとめと日本市場への示唆
ステランティスと中国EVメーカーによる欧州での協業は、単なるコスト削減にとどまらず、貿易摩擦や関税障壁を回避するための「地政学的な最適解」としての側面を強めています。かつての単純な輸出から、合弁や受託生産を通じた「現地エコシステムへの融合」へとフェーズが移行していると言えます。
日本の自動車メーカーやサプライヤーにとっても、欧州における余剰資産の流動化や、異業種・異国籍企業間の柔軟なアライアンス構築のスピード感は、今後のグローバル戦略を策定する上で重要なケーススタディとなるでしょう。
Q1: ステランティスが欧州の余剰工場を中国メーカーに提供する理由は何ですか?
EV需要の減速に伴い、ステランティスの欧州工場の稼働率は一時45%程度に落ち込んでおり、多額の固定費が発生しています。余剰工場をパートナー企業に提供することで、設備の稼働率を引き上げ、財務上の負担を軽減する狙いがあります。
Q2: 零跑(Leapmotor)とステランティスの提携は具体的にどのように機能していますか?
両社は「Leapmotor International」という合弁会社(ステランティス51%、零跑49%出資)を設立しました。ステランティスのスペイン工場などで零跑ブランドのEVを組み立てることで、零跑はEUの対中追加関税を回避し、ステランティスは生産設備を有効活用しています。
Q3: 小米(Xiaomi)の欧州進出ロードマップは?
小米は2027年に欧州市場への本格参入を予定しています。これに先立ち、2025年9月にドイツのミュンヘンにEVのR&D・デザインセンターを開設し、欧州市場の要求に適合した車両開発を行っています。
Q4: 小鵬(XPENG)はどのように欧州での現地生産を計画していますか?
オーストリアのマグナ・シュタイアでの受託生産に加え、すでに5%の出資関係にあるフォルクスワーゲン(VW)の欧州余剰工場を活用する方針で交渉を進めています。
Q5: 欧州で自動車工場を閉鎖・再編する場合、どの程度のコストがかかりますか?
業界の試算では、欧州で大規模な自動車工場を閉鎖または大幅に再編するには、約15億ユーロ(約2,500億円)の費用と、1年から3年もの歳月が必要とされています。
コメント
...