TL;DR: 2025年第4四半期(Q4)の決算において、理想汽車(Li Auto)は表面上は黒字化を達成したものの、金融商品の運用益などを除いた本業の営業損益ベースでは大幅な赤字が残る結果となりました。低価格EV「i6」モデルの投入や急激な組織再編が利益率低下の主な要因となっています。
- 財務実態: 純利益は2,000万元(約4億円)の黒字だが、投資利益を除外した本業の営業損益(Non-GAAP調整後)は1億8,800万元(約37.6億円)の赤字
- 粗利率の悪化: 車両粗利率(毛利率)は16.8%に低下、過去4年間で初めて健全ラインとされる17%を割り込む
- 価格下落の圧力: 新型EV「i6」が月平均1.6万台を販売し全体の60%を占めたものの、平均販売価格(ASP)を押し下げる要因に
- 組織再編と混迷: 経営幹部の離職とマネジメント体制の変更、およびフラッグシップMPV「MEGA」のリコールコストが重荷に
中国のスマートEV市場における激しい価格競争は、これまで「高収益EVベンチャー」の筆頭とされてきた理想汽車(Li Auto)をも直撃しています。その決算データからは、販売ボリュームの確保と収益性の維持を両立させることの難しさが鮮明に浮かび上がっています。
2025年Q4決算の概況:投資利益で隠された「本業の赤字」
理想汽車が発表した2025年Q4決算では、当期純利益が2,000万元(約4億円)と、前年同期の赤字から黒字に転換したことが強調されました。しかし、財務指標を詳細に紐解くと、別の実態が見えてきます。
同期間中の Non-GAAP 調整後純利益は2億7,400万元(約54.8億円)となっていますが、その大半は金融商品の利息や投資リターンなどによる約4億3,000万元(約86億円)の「投資利益」によるものです。この投資利益を差し引くと、事業自体の営業損益は実質的に約1億8,800万元(約37.6億円)の営業赤字となります。
一時的な資産運用益によって見た目の黒字を作っている状態であり、持続可能な収益モデルとは言い難い状況です。
構造的な経営課題とキャッシュフローの急悪化
理想汽車はこれまで、大型高級SUV(Lシリーズ)を主力とし、高い粗利率を武器にしてきました。しかし、2025年全体を通した財務成績では、営業利益率は2024年の8.4%からマイナス1.5%へと急落しています。
さらに、企業経営の健全性を示すフリーキャッシュフロー(FCF)は、2024年のプラス82億元(約1,640億円)から、2025年はマイナス128億元(約2,560億円)へと大幅な赤字に転落し、資金繰りの圧迫が急速に進んでいます。この背景には、過酷な値下げ競争の中でのマーケティング費用の増大や、新車種の製造コスト高騰が存在します。
低価格EV「i6」モデルがもたらした二律背反
2025年9月に投入された純電動セダン「i6」は、月平均1.6万台を販売し、同四半期の販売台数全体の約60%をカバーするヒットとなりました。24万9,800元(約500万円)からという低めの価格設定に初期割引キャンペーンを上乗せしたことで、一時的に新規ユーザーを惹きつけました。
しかしこのi6の価格設定は、車両平均販売価格(単車収入)を、前年同期の27.79万元(約556万円)から25万元(約500万円)へと一気に低下させました。その結果、2025年Q4の車両粗利率(毛利率)は16.8%に低下。プレミアムEVメーカーとしての収益基準であった17%の閾値を初めて割り込み、利益構造を毀損する事態となりました。
| 競合メーカー・要素 | 理想汽車(Li Auto)への影響と市場環境 |
|---|---|
| 理想汽車 (Li Auto) | i6投入により販売台数は増えたが、車両粗利率は16.8%へ低下し本業赤字が継続 |
| 零跑汽車 (Leapmotor) | 中低価格帯の増レンジEVで攻勢をかけ、理想汽車のシェアを部分的に侵食 |
| Xiaomi (シャオミ) | スマートフォンエコシステムと高性能EV「SU7」シリーズの圧倒的競争力による価格圧迫 |
組織再編と「MEGA」リコールの負のスパイラル
また、同社初の高級ミニバンEV「MEGA」で発生した仕様関連のリコール対応コストが利益率を押し下げる要因となりました。さらに追い打ちをかけたのが、2025年下半期から始まったマネジメント体制の激変です。
理想汽車はそれまで敷いていた集団経営体制から、創業者である李想CEOへ意思決定権限を集中させる体制へ急遽移行。この組織改編に伴い、かつてHuawei(華為)等から招いたプロ経営者・役員クラスが10名以上離職しました。この内部の混乱により、サプライチェーンマネジメントや製造現場でのボトルネックが発生し、i6の一部モデルの納期が最大17週間にまで延びるなど、デリバリー遅延による赤字の長期化を招きました。
2026年の戦略:フラッグシップの再投入と「エンボディドAI」へのシフト
理想汽車は、2026年Q1の販売予測を8.5万〜9万台、予想売上高を204億〜216億元(約4,080億〜4,320億円)と発表し、前年同期比でいずれもマイナス成長を見込んでいます。
復活に向けたシナリオとして、2026年Q2以降に上位モデル「L9」の新型やフラッグシップSUVを順次投入して粗利率を再建する計画ですが、i6等の低価格帯の価格構造にメスを入れない限り、劇的な収益改善は困難です。
そこで同社は、単なる「走るEV」から、車載用大規模AIモデルを搭載した「ロボティクス(空間ロボット)」への展開にリソースを集中させつつあります。
CEOの李想氏は「将来的に自動車は最も普及する具現化AI(エンボディドAI)ロボットになる」と公言し、2025年中に「空間ロボット」や「ウェアラブルロボット」の開発部門を新設。同年末にはスマートグラス「Livis」を発表するなど、AIと物理ロボティクスを垂直統合したエコシステムを構築して、Xiaomi等のIT系EVに対抗する長期的な差別化戦略を描いています。
まとめ
理想汽車が2025年Q4に記録した黒字化は、財務運用利益によって支えられた「表面上の数値」であり、本業はEV価格下落と組織再編の影響で大きなプレッシャーにさらされています。2026年の再生は、主力SUVの粗利率復権と、自動運転や具現化AI(エンボディドAI)などの次世代技術をパッケージにした高付加価値ビジネスへのシフトが成功するかどうかにかかっています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2025年Q4決算の黒字化に実態がないと言われるのはなぜですか?
純利益ベースでは2,000万元の黒字ですが、これは金融商品からのリターン(投資利益約4.3億元)によるものであり、本業の営業損益ベースではNon-GAAPベースで1億8,800万元の赤字となっているためです。
Q2. 新型EV「i6」はなぜ販売が好調なのに利益率を下げたのですか?
i6は24.98万元からという低価格設定で発売され、さらに各種の割引プロモーションが行われたため、1台あたりの粗利益率が上位モデルに比べて低く、全体の車両粗利率を16.8%にまで押し下げる「プロダクトミックスの悪化」を招いたためです。
Q3. 2026年の理想汽車の戦略で注目すべきポイントは?
短期的な利益改善のために投入される主力SUV「Lシリーズ」の高級モデルの販売比率回復と、中長期的に進められている自律型ロボティクス(スマートグラスや空間ロボット等)および具現化AI(エンボディドAI)のEVへの統合技術が鍵となります。
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