
背景と中国高級EV(NEV)市場の二大勢力
中国のプレミアム新エネルギー車(NEV)市場において、国有自動車大手の東風汽車グループ傘下のプレミアムEVブランド「嵐図(VOYAH)」と、ファーウェイ(華為)の「スマート選車(智選車)」エコシステムで深く協業する「セレス(SERES / 賽力斯)」が、同時に香港証券取引所への上場手続きを進め、市場の耳目を集めました。
セレスが約156億香港ドル(約3,000億円)規模の新規公募増資(IPO)による資金調達を目指したのに対し、嵐図は新株発行を行わず既存株を上場させる「紹介上場(Listing by Introduction)」方式を選択しました。
嵐図(VOYAH)の急速な業績成長と驚異的な利益率
嵐図は年間約8万台の販売台数を誇り、急速にそのシェアを拡大しています。特に、主力モデルであるプレミアムMPV「夢想家(Dreamer)」は、ミニバン大国である中国においてNEVミニバン部門第2位となる4.7万台を販売し、ブランドの屋台骨となっています。
最新の財務データによると、上半期の売上高は前年同期比90%以上増の157.8億元(約3,150億円)、そのうち車両販売収入は147.3億元を記録。特筆すべきは売上高総利益率(マージン)が21.3%に達している点です。これは、新興EV大手の理想汽車(Li Auto)や小鵬汽車(Xpeng)と同等、あるいは一部上回る高水準な数字です。
さらに、同期の調整後純利益は4.79億元(約96億円)の黒字となっており、新興EVブランドの中でも極めて早い段階で四半期黒字化を達成した企業の一つに数えられます。(ただし、これには国からのエコカー購入補助金や研究開発補助金など計6.4億元が含まれており、補助金を除いた営業利益ベースでは依然として赤字である点は、他の中国メーカー同様に課題となっています)
「紹介上場」を選択した東風グループの構造改革
新株発行による資金調達を行わない「紹介上場」を採用した背景には、親会社である東風汽車集団の戦略的判断があります。現在、東風汽車が嵐図の株式の79.67%を保有していますが、この既存株式を現在の東風の株主へ配当等の形で割り当て、独立した企業として香港に上場させます。
伝統的な内燃機関(ガソリン車)事業が縮小し、株式市場での評価が低迷する東風汽車は、成長著しいEV部門である嵐図を「スピンオフ(事業分離)」することによって、眠っていた企業価値を顕在化させる狙いがあります。東風の既存の株主に対して、高い成長性を持つ嵐図の株を直接保有させることで、投資家の離脱を防ぎ、グループ全体の株価を下支えする効果も狙っています。
また、嵐図は直近時点で72.5億元(約1,450億円)の手元流動性(現金及び現金同等物)を保有しており、当面の運転資金や設備投資資金が自己資金で賄えるため、株式の希薄化を伴う新規の資金調達を急ぐ必要がないことも、紹介上場を選んだ要因となっています。
独自開発プラットフォーム「ESSA」によるコスト管理
嵐図が誇る20%以上の高マージンの源泉は、独自開発のスマートEVアーキテクチャ「ESSA」にあります。
ESSAプラットフォームは、部品の共通化率を90%以上にまで高めており、BEV(バッテリーEV)、PHEV(プラグインハイブリッド)、EREV(レンジエクステンダー / 発電用エンジン搭載EV)という異なるパワートレインを、同一の組み立てラインで混流生産することを可能にしています。
この高い柔軟性により、高価なバッテリーパック、ドライブユニット、シャシー部品の調達コストが大幅に低減。さらに、親会社である東風グループが長年培ってきた大手グローバルサプライヤーとのネットワークと購買力を活用することで、他スタートアップが直面する部品供給の制約や高単価化を回避しています。
課題:フラッグシップ以外の「一本足打法」からの脱却
嵐図の直面する最大の壁は「規模の経済」の達成、すなわち絶対的な販売台数の不足です。MPV「夢想家」が好調である一方、ラグジュアリーセダンの「追光(Chasing Light)」や中大型SUV「FREE」の販売が伸び悩んでおり、事実上の「MPV一本足打法」となっています。
年間目標である20万台の達成には程遠く、ブランド認知度の更なる向上と、補助金に依存しない自立した収益モデルの確立が求められます。今回の紹介上場は、企業構造の健全化とグローバル展開(特にヨーロッパや東南アジアへの輸出拡大)を加速させる足がかりとなることは確実ですが、真のプレミアムEVメーカーとして自立できるかは、今後のモデルラインナップの拡充と販売網の拡大にかかっています。
出典: huxiu
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