
ミャンマーでは労働力の約65%が農業に従事し、GDPの60%近くを農業が占める。こうした独自の経済構造を背景に、農家の課題解決に特化したアグリテック(農業テック)スタートアップが次々と台頭している。
Tun Yat、Green Way、Golden Paddy、Htwat Toeといった現地のアグリテック企業は、農家が農機をシェアリングで借りたり、農学者と直接つながって相談したり、天気予報や農産物の市場価格情報をリアルタイムで取得できるモバイルアプリを提供し、農業の生産性向上に貢献している。
Wave Moneyが牽引する「リープフロッグ」型デジタル金融
モバイルマネー分野では、国内最大のモバイル金融ネットワークを運営する**「Wave Money」**が先頭を走る。同社は2018年に13億米ドル以上の送金を処理し、これはミャンマーの当時のGDPの約2%に相当する規模に達した。
ミャンマーでは、従来の伝統的な銀行口座の保有率が極めて低かったが、スマートフォンの急速な普及により、銀行を介さずにモバイル決済を導入する「リープフロッグ(段階的な進化を飛び越える現象)」が発生している。Wave Moneyは、全国に点在する個人商店などを「代理店」化し、キャッシュイン(預け入れ)やキャッシュアウト(引き出し)を行える巨大なネットワークを構築した。これはケニアの「M-Pesa」に似たモデルであり、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)の成功例として評価されている。
また、ミャンマー最大の民間銀行であるKBZ銀行も独自のデジタルバンキング「KBZPay」を開始し、都市部を中心に電子決済の波を加速させている。
さらに「Mother Finance」などのフィンテックスタートアップは、スマートフォンの利用履歴やAIを活用した代替的な与信審査により、これまで銀行から融資を受けられなかった低所得者層や中小零細企業へ無担保で小口融資を行うサービスを提供し、社会的課題の解決に寄与している。
Facebookが巨大なECプラットフォームとして機能
ミャンマーのデジタル市場における極めてユニークな現象が、ソーシャルメディア「Facebook」が事実上の主要なEC(電子商取引)プラットフォームとして機能している点だ。
多くの個人ショップや中小事業者が、専用のWebサイトを持たずにFacebookページ上で商品の写真を公開して直接販売を行っている。取引の多くはチャットでのやり取りで行われ、決済は現金代引き(COD)またはモバイル送金で行われる。このソーシャルコマースの拡大に伴い、配送やエスクロー決済(取引完了まで代金を一時的に預かる仕組み)を提供する物流・決済代行ニーズも年々高まっている。
Grabの「超地域密着(ハイパーローカル)」戦略
シンガポール発の配車サービス大手「Grab」は2017年にミャンマー市場へ参入。先行して上陸していた「Uber」が2018年に東南アジア事業をGrabに売却したため、Grabは現在ミャンマーにおける唯一の主要なグローバル配車サービスとなっている。
Grabがミャンマーで成功した要因は「ハイパーローカル戦略」にある。現地のドライバーに対し、スマートフォンの操作方法から接客マナーまでの対面トレーニングを提供。さらに、現地提携銀行のCB Bankと協力し、ドライバーたちが人生で初めての銀行口座を開設できるよう支援した。これにより、現金社会であるミャンマーにおいて、ドライバーへの報酬の即時支払いやキャッシュレス化を推し進めることに成功した。
規制の壁とフロンティア市場の展望
ミャンマーのデジタル経済は大きく躍進しているものの、規制環境の整備はまだ追いついていない。フィンテックをはじめとするライセンスの取得には時間とコストがかかり、外資に対する法的な参入規制も残る。
しかし、専門家は「他国の発展モデルを模倣できるミャンマーは、先進技術の取り込みスピードが極めて速い。デジタルリテラシーのギャップを考慮したプロダクト設計を行える企業にとって、大きなポテンシャルを秘めたフロンティア市場であることは間違いない」と指摘する。
情報源:現地スタートアップレポート
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