
中国・上海を訪問した日本人ビジネスパーソンから寄せられた、2018年当時の現地のフィンテック事情についてのリアルな体験レポートをお届けします。
日本では報道ベースでしか伝わりにくい「生活者目線での中国テクノロジーの実態」と、その後の変遷や日本市場への示唆を含めて再構成しました。
現地で体験した6つの先端テクノロジー
① モバイル決済の圧倒的普及(WeChat Pay & Alipay)
大半の店舗がQRコード決済に対応しており、現金を出すと店員に嫌がられる(お釣りがないなどの理由)場面も日常茶飯事です。
中国のモバイル決済市場は、テンセント(腾讯)が運営する国民的コミュニケーションアプリ「WeChat(微信)」を基盤とする**WeChat Pay(微信支付)と、アリババ(阿里巴巴)グループの金融関連会社アント・グループ(蚂蚁集団)が運営するAlipay(支付宝)**の2大巨頭によって二分されています。
クレジットカードや交通系ICカード(Suicaなど)が主流の日本に対し、当時の上海ではすでにスマートフォン一台が「財布そのもの」として機能し、財布を持ち歩かないライフスタイルが完全に確立されていました。
② 配車アプリ「DiDi(滴滴出行)」による移動革命
移動には配車アプリの**DiDi(ディディ/滴滴出行)**を利用しました。
かつては米国のUber(ウーバー)も中国に進出していましたが、激しいキャッシュバック合戦の末、2016年にDiDiがUberの中国事業を買収・統合する形で決着しました。
アプリで行き先を指定すれば、数分で車両が迎えに来て、決済もアプリ内でシームレスに完了します。日本ではタクシー規制や業界の慣習により普及に時間がかかった配車サービスですが、中国では都市の交通インフラとして不可欠な存在になっています。
③ シェアサイクルの光と影(Mobike & ofo)
街中のいたる所に、オレンジ色の自転車(Mobike/摩拝単車)と黄色の自転車(ofo/オーフォー)が整然と、あるいは山のように並んでいました。
専用アプリで車体のQRコードを読み取るだけで開錠でき、どこでも乗り捨てが可能な「ドックレス型(ポート不要)」のシェアサイクルです。
- Mobike:後に生活関連サービス大手「美団(Meituan)」に買収され、サービスが統合されました。
- ofo:過剰な車両投入と預かり金(デポジット)の返還難に陥り、後に事実上の破綻を迎えました。
このシェアサイクルブームは、利便性をもたらした一方で、放置自転車による都市問題やベンチャーキャピタルの資金燃焼競争の象徴としても語られています。
④ 無人コンビニ「猩便利(ゴリラコンビニ)」の試行錯誤
当時、中国では「ニューリテール(新小売)」の波が押し寄せ、無人コンビニやスマート自販機の実験店舗が乱立していました。
スタートアップである「猩便利(Gorilla Convenience)」の店舗では、レジがなく、顧客が自分で商品のバーコードをスマホでスキャンして決済する体験を提供していました。
完全な無人ではなく、システムに不慣れな顧客のためにスタッフが常駐し、アプリの使い方を説明していたのが印象的です。この「無人リテール」ブームは、後に運営コストや万引き対策の難しさから、多くのスタートアップが淘汰され、現在はスマートロッカーやハイブリッド型店舗へと進化しています。
⑤ 小米之家(Xiaomi Store)の「AIoT」エコシステム
中国を代表する総合家電・スマートフォンメーカーであるシャオミ(小米)の直営旗艦店「小米之家」です。
Apple Storeを思わせるミニマルで洗練された木目調のインテリアに、スマートフォンだけでなく、ロボット掃除機、空気清浄機、スマート炊飯器、ポータブルスピーカーなど、同社が投資する「シャオミ・エコシステム」のスマート家電(AIoT製品)がずらりと並んでいます。
優れたデザインと圧倒的なコストパフォーマンスで、若者を中心に絶大な支持を集めていました。
⑥ スターバックス リザーブ ロースタリー 上海の体験価値
当時、世界最大規模の店舗としてオープンしたばかりの「スターバックス リザーブ ロースタリー 上海」です。
巨大な焙煎設備やAR(拡張現実)技術を活用した店内ツアーなど、単にコーヒーを飲むだけでなく「五感で楽しむテーマパーク型店舗」として大ヒットしていました。訪れた際は満席で座れず、中国市場におけるスターバックスの圧倒的なブランド力を肌で感じました。
日本市場への示唆と総評
上海の視察を通じて強く感じたのは、テクノロジーの「社会実装スピード」の速さです。法規制のグレーゾーンでまずサービスを立ち上げ、走りながらルールを整備していくスタイルは、中国市場の大きな強みです。
一方で、都市全体の洗練さや、サービス一つひとつの丁寧さ、インフラとしての信頼性(バグの少なさなど)を比較すると、総合的なUXではまだ日本の主要都市(東京など)に一日の長があると感じる部分もありました。
しかし、このスピード感でPDCAが回され続ければ、瞬く間にクオリティ面でも追い抜かれることは確実です。中国を「イノベーションの実験場(サンドボックス)」として捉え、そこで何が生き残り、何が淘汰されたかを分析することは、日本のデジタル変革(DX)を進める上でも極めて貴重なヒントになります。
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