中国発の二大決済サービス「Alipay(支付宝)」と「WeChat Pay(微信支付)」が、QRコード決済を携えて日本市場への本格的なアプローチを開始したのは2015年だった。中国国内でそれぞれ数百万以上の加盟店を獲得し、都市部でのモバイル決済インフラをほぼ独占した彼らの勢いは凄まじかった。これに対し、当時中国銀聯(UnionPay)が普及を試みていた「クイックパス(QuickPass:非接触IC/Apple Payベース)」は、普及率の面で後塵を拝する結果となった。
当時、中国の年間海外旅行者数は1億人を突破しており、中国人民銀行は越境決済ライセンスを17社に試験発行していた。その初期メンバーとして承認されたのがAlipayとWeChat Payを運営するアリババとテンセントである。両社は「海外に渡航した中国人旅行者も、現地で使い慣れたQRコード決済を利用したいはずだ」という確信のもと、グローバル展開を加速。銀聯カードの決済データを分析し、最も消費額の大きい日本市場を最重要ターゲットに設定した。
彼らがとった戦術は、かつて越境EC事業で協業関係にあった日本の決済代行事業者(PSP)にアプローチし、リアル店舗でのQRコード決済導入を持ちかけることだった。Alipayが先行し、WeChat Payがそれに追随する形で、インセンティブと手数料率の交渉を織り交ぜながらパートナー開拓を推進。その結果、日本の大手国際空港、主要百貨店、ショッピングモール、ドラッグストアなど、訪日中国人が集中するトップクラスの商業施設の決済端末をまたたく間に押さえていった。
当時、FeliCa(SuicaやiD、楽天Edyなど)による非接触決済が定着していた日本において、安価なプリントアウトやタブレット端末だけで導入できるQRコード決済の仕組みは、加盟店にとって衝撃的だった。AlipayとWeChat Payは、単にビジネスモデルを日本に持ち込んだだけでなく、店舗運営、財務フロー、POSシステムの接続開発、店頭オペレーション、そしてキャンペーン設計に至るまで、日本の流通業界や決済業界に対して「QRコード決済の運用ノウハウ」を教育する役割を果たしたのである。
この中国勢の進出に刺激を受け、そのシステム設計や加盟店網の広げ方をベンチマークする形で、日本国内でもOrigami Pay、LINE Pay、楽天ペイ、d払いなどの国産QRコード決済サービスが相次いで立ち上がった。特に初期のOrigami Payは、加盟店側のCRMやクーポン機能、ポイント還元に注力しており、Alipayの思想に近いアプローチを採っていた。
クレジットカードや電子マネーが支配的だった日本市場で、QRコード決済は一過性のブームを超え、主要なインフラへと成長した。各決済事業者の熾烈なキャンペーン合戦を経て、ユーザー還元率や利便性を巡る淘汰が始まる中、中国発のイノベーションが日本のキャッシュレス社会を大きく前進させたことは紛れもない事実である。
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