シンガポールで、5日間にわたり開催された「Fintech Festival」では、多くの企業が独自のフィンテック技術を披露しました。期間中、シンガポールのモバイル決済インフラである「PayNow」と、タイの「PromptPay」が提携を発表し、国境を越えた相互モバイル送金・決済システムが実現することになりました。
シンガポールの「PayNow」は、同国第2位の銀行であるOCBC銀行などを中心とした主要行が共同で提供するモバイル決済ツールです。専用アプリを個別に追加しなくても、既存のインターネットバンキングプログラムを利用して携帯電話番号や国民登録IDを紐付けるだけで、シームレスなモバイル送金が可能です。Facebookや、東南アジアで普及しているメッセージングアプリ「WhatsApp」を経由して簡単に送金できる利便性をアピールしています。
一方、タイの「PromptPay」は、2016年7月にタイ政府主導のデジタルエコノミー推進策(National e-Payment Project)の一環として立ち上げられたもので、同様に携帯番号や国民IDで利用登録ができます。すでにタイの人口の3分の1が利用する国民的決済サービスとなっています。
このように、シンガポールとタイを代表するモバイル決済プラットフォームが国境を越えて連携する背景には、アリババの「Alipay」やテンセントの「WeChat Pay」といった中国の巨大決済プラットフォームによる東南アジア進出への強い対抗意識があります。
東南アジアが中国決済勢にとっての「ブルーオーシャン」である理由
東南アジアの総人口約6億3000万人のうち、銀行口座を保有しているのは約3分の1にあたる2億1000万人にすぎません。残りの3分の2、約4億2000万人もの人々が銀行口座を持たない「アンバンクド(Unbanked)」の層です。
この市場構造は、かつてクレジットカードや銀行口座が普及する前にスマートフォンによるモバイル決済が一気に普及した中国の市場変遷と極めて類似しています。そのため、東南アジアはモバイル決済を得意とする中国のメガテック企業にとって、非常に魅力的な「ブルーオーシャン(未開拓市場)」と映っているのです。
調査会社ユーロモニターの予測によると、東南アジアのモバイル決済市場は2021年までに320億米ドル(約3.5兆円)規模に達し、2013年比で約10倍に拡大する見込みです。
アリババとテンセントの怒涛の攻勢とシンガポールの危機感
シンガポール国内でも中国決済サービスの浸透は急速に進んでいます。中国人観光客の誘致を目的に、チャンギ国際空港や主要な百貨店、レストランでAlipayが広く導入されました。さらにアリババグループは、東南アジア最大級のECプラットフォーム「Lazada(ラザダ)」の株式の83%を取得し、Lazada傘下の決済サービス「HelloPay」を「Alipay」ブランドへと統合。ECの決済手段としてAlipayを標準化しました。
こうした中国勢の猛追に対し、最も強い危機感を抱いているのが金融先進国であるシンガポールです。シンガポールは、自国がアジアの金融ハブであるという自負を持っています。そのため、AlipayやWeChat Payに国内の決済インフラを独占され、自国民の購買データや金融データが中国側に流出することに強い警戒感を示しています。
国内金融機関の反撃とデジタルハブの死守
2017年7月、シンガポール最大の政府系銀行であるDBS銀行は、QRコード決済機能を備えたウォレットアプリ「PayLah!」の提供を開始しました。OCBC銀行など複数行が連携した「PayNow」も含め、独自の国内標準決済システムを構築して中国勢に対抗しようとしています。
DBS銀行のように、アジアでトップクラスの安定性を誇る大手行が、あえて自社決済システムの変革に乗り出すのは異例とも言えます。現在、シンガポールのホーカー(屋台街)などでこれらのQRコード決済を利用しようとすると、店側に敬遠されるなど普及の過渡期における課題もあります。
しかし、フィンテック分野で圧倒的なスピードを誇る中国企業に今対抗しなければ、数年後には銀行の主権すら奪われかねないという危機感があります。中国勢が東南アジア全域を制圧する前に、自国発のモバイル決済ネットワークを周辺国へ拡張し、主導権を握ることこそが最大の防御策になると捉えています。
シンガポールを舞台に、官民が一体となったかつてない高度なフィンテック競争が始まっています。
情報源:Glo Tech Trends
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