
FinTechの潮流の中、リテール決済分野における極めて特徴的な動きとして、世界的に急速な普及が進んだスマートフォンを用いた「モバイル決済」の広がりが挙げられる。
このようなモバイル決済は、先進国よりも、むしろ中国やケニアといった、従来はリテール向けの銀行サービスやクレジットカードインフラが十分に発達していなかった新興国・発展途上国において、既存インフラを一っ飛びにする「リープフロッグ型」で急速に普及するケースが目立っている。一方で日本では、世界に先駆けて2004年の段階で「おサイフケータイ(FeliCa)」技術を携帯端末に搭載する形で店頭モバイル決済サービスが開始されたものの、現時点においても店頭でのモバイル決済が広範に浸透しているとは言い難い状況にとどまっている。
日本銀行(日銀)が発表したレポートでは、先進国である日本、米国、ドイツを対象としたアンケート調査および分析が行われているが、モバイル決済の最先進国である中国や韓国は比較のスコープから除外されている。金融インフラの前提が異なるため比較が難しいとの判断だと思われるが、グローバルなメガトレンドを捉える上ではやや物足りなさを感じる。
また、同レポート内ではケニアの「M-PESA(エムペサ)」が取り上げられているが、これはスマートフォンの「モバイルアプリ決済」というよりも、従来のフューチャーフォンを用いた「SMS決済(テキストメッセージ決済)」と表現する方が実態に即している。従来のプラスチックカード決済と比較した場合、SMSを通じてカード保有者(ウォレット会員)と双方向のコミュニケーションができる利点はあるが、スマートフォンのようなリッチなUIや、NFC、位置情報(LBS)といった高度な機能を備えていない。そのため、通信回線が従来の専用POS回線から携帯キャリアのSMS回線に置き換わったに過ぎないという側面もある。
さらにレポートでは、モバイル決済の普及に向けた最大の課題は「ユーザーのセキュリティに対する不安感の払拭」であると指摘している。しかし、中国におけるAlipay(支付宝)やWeChat Pay(微信支付)の運用実績を見ると、最新のモバイル決済における不正利用率やカード詐欺の発生率は、従来のクレジットカード決済や銀聯デビットカードによる決済よりも桁違いに低い。もし中国で同様のセキュリティ意識に関するアンケート調査を実施すれば、「プラスチックカード決済よりも、QRコード決済の方がはるかに安全である」という結果が出るはずだ。
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