中国の小売業界において、実店舗のデジタルシフト(EC化)に伴うモバイル決済の導入が急速に進んでいる。決済の主導権を握るべく、「Alipay(アリペイ/支付宝)」と「WeChat Pay(微信支付)」の2大巨頭は、加盟店の獲得に向けて激しい接近戦を展開し始めた。
オフライン小売業のインターネットシフト
中国におけるEコマース(EC)の爆発的な発展は、従来のオフライン小売業(実店舗)に大きな打撃を与えてきた。この危機感から、多くの伝統的小売企業がビジネスモデルを刷新し、インターネットを活用した「O2O(Online to Offline)」への参入を急いでいる。中には億元(数十億円)規模の投資を投じてデジタル改革を推進する企業も現れている。
この背景にあるのが、決済インフラのモバイル移行だ。PCブラウザベースのネットバンキングからスマートフォンへの移行が進み、企業のモバイル決済対応は必須となっている。中国政府のシンクタンクである国務院発展研究センター金融研究所が発表した「中国インターネット決済セキュリティ白書」によると、中国のインターネット決済規模は数年以内に20兆元(約340兆円)を突破し、従来の6倍以上に成長すると予測されていた。その成長を牽引するのがモバイル決済であり、2013年時点の市場規模は前年比5倍以上の8,000億元(約13.6兆円)に達する勢いを見せていた。
アリペイ対WeChat Pay:百貨店を巻き込んだ加盟店争奪戦
両社の直接対決に火がついたのは、2013年8月にWeChat(微信)がバージョン5.0をリリースし、決済機能を実装したことである。当時すでに数億人のユーザーを抱えていたWeChatは、公式アカウント内でQRコードをスキャンするだけで決済が完結する仕組みを提供。これにより、オンラインのECショップから街の個人商店、アパレル店に至るまで、あらゆる事業者がWeChat Payの導入を模索し始めた。
テンセントは同年10月、大手百貨店の「新世界百貨」と提携し、WeChat Pay経由でチャージ可能なバーチャルプリペイドカード「微楽付(ウィーラフー)」を発表。
これに対し、アリババ傘下のアント・フィナンシャル(当時)は、ライバルである百貨店チェーン「銀泰百貨(インタイム)」の29店舗において、モバイル決済アプリ「Alipayウォレット(支付宝銭包)」を一斉導入することで応戦した。
加盟店の奪い合いと切り替えの動き
一部の有名店舗では、両社の加盟店枠を巡るバッティングも発生した。同年12月、WeChat Payは人気の衣料品ディスカウントチェーン「上品折扣(シャオピンジャーコウ)」と提携し、QRコードによるスマート店舗決済を導入した。
実は、このチェーン店には以前Alipayが導入されていたが、当時の利用実績は「1店舗あたり週に10回程度」と限定的であった。WeChat Payが提供する「チャットアプリからシームレスに決済できる利便性」が、店舗側が決済手段を切り替える決定打となったと見られている。
AlipayウォレットとWeChat Payによるオフライン決済の覇権争いは、まさに始まったばかりであり、今後の中国の金融エコシステムを決定づける戦いとして注目されている。
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