
中国において、日本のSuicaやPASMOのような交通系プリペイド(電子マネー)カードのビジネスを展開するにあたっては、システムや運用の構築だけでなく、国ごとの金融法規制への厳格な対応が求められます。
最近、広東省深セン市の交通ICカード「深セン通(Shenzhen Tong)」が、金融規制ルールに違反している疑いがあるとして現地メディアで報道されました。中国の中央銀行である中国人民銀行の深セン中心支店は、「深セン通」の運営会社である深セン通有限公司が、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの一般小売店における決済業務に必要な「非金融機関支払ライセンス(支付業務許可証)」を取得していないことを確認しました。
交通系ICカードの一般小売決済への拡大と規制の壁
深セン通は、深セン市交通局が主導し、現地のバス会社や地下鉄などの交通系企業が共同出資して設立された運営会社です。立ち位置としては日本のPASMOに非常に近いものです。
当初は公共交通機関での乗車カードとしてスタートした「市民利便プロジェクト」でしたが、近年は利用シーンの拡大を図り、スーパーや薬局、コンビニなどの一般小売店舗での支払い手段としても積極的に導入を進めていました。さらに、通信キャリアと提携したモバイルNFC決済や、銀行のクレジットカード・デビットカードとの一体型カードの発行など、多角化を推進してきました。
公式ウェブサイトのデータによると、2012年12月時点で深セン通の発行枚数は1,800万枚を超え、導入端末は5万台以上、1日の取引件数は700万件以上に上っています。同社は郵政儲蓄銀行などと提携し、事実上の「少額決済プラットフォーム」を構築していました。
人民銀行(金融規制)と交通局(インフラ推進)の主導権争い
今回の問題の本質は、中央銀行である中国人民銀行と、地方の交通インフラを握る交通局(および地方政府)との権限争いにあります。
中国の法規制では、交通カードが公共交通の枠を超えて一般の小売決済(電子マネー化)に進出する場合、人民銀行の監督下に置かれ、サードパーティ決済事業者と同様の「支払ライセンス」を取得しなければなりません。しかし、深セン通社は背後に交通局や市政府の強力な支援(バックグラウンド)があるため、ライセンス未取得のまま事実上の決済プラットフォーム運営を継続していました。
今回の摘発について、深セン通社取締役の呂(Lv)氏は、「弊社が非金融決済業務において違反状態にあるかどうかについて、中国人民銀行の深セン支店から事情聴取を受けており、人民銀行側が求める是正措置に向けた強硬な要請に対応している」と語り、法制順守の是正を求められている事実を認めました。
日本でも、交通系ICカードが一般加盟店決済に対応する際は、資金決済法(前払式支払手段)に基づき財務局への登録や保全義務が課されます。中国でもモバイル決済市場が急速に成熟する中で、交通系ICカードも金融当局による厳格な統一規制ルールから逃れられない局面を迎えています。
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