中国で圧倒的なシェアを獲得している対話アプリ「微信(WeChat)」。決済機能の進化が注目される中、そもそも微信とはどのようなアプリなのか、日本のLINEや韓国のKakaoTalkと何が違うのか、その独自の機能と中国市場における受容プロセスを解き明かす。
1. LINEにもFacebookにもない特徴的な機能「附近的人(周辺の人)」
微信を特徴づける最大のエッセンスの一つが、GPSの位置情報を活用した「附近的人(英語版ではLook Around)」機能だ。
このメニューを起動すると、今現在自分の近くにいる他の微信ユーザーが、距離の近い順(100m以内、200m以内など)に一覧で表示される。ユーザーの多くは顔写真付きのプロフィールを設定しており、投稿ブログ(モーメンツ)の一部も確認できる。検索範囲を「男性限定」や「女性限定」に絞り込むことも可能だ。
気になるユーザーを見つければ直接メッセージを送信でき、チャットを開始できる。この「出会い系」とも言えるカジュアルな機能は、若者の間で急速に普及した。
また、ビジネス出張時などにも実用的なツールとして機能する。例えばマレーシアなど中華系住民が多いエリアでこの機能を利用すれば、中国語を話せる現地ユーザーが多数ヒットする。「北京から出張で来ました。クアラルンプール中心街のデパートの場所を教えてください」と投稿すると、親切な現地ユーザーから即座に情報が寄せられるといった、リアルタイムな地域掲示板のような使い方もなされている。
2. 安心感をもたらすクローズドネットワーク「朋友圈(モーメンツ)」
「附近的人」のようなオープンな繋がりがある一方で、微信のベースは友人限定のクローズドなSNSプラットフォームである。
スマートフォンの連絡先と同期された友人同士で繋がり、お互いに承認し合ったメンバーだけで近況をシェアする「朋友圈(モーメンツ)」がその中心だ。親しい友人の間だけで画像やテキスト、音楽などを共有し合い、「賛(いいね)」やコメントを送り合う。オープン型のSNSと違い、不特定多数に個人情報が漏えいしたり攻撃を受けたりする心配がない。この安心感こそが、微信の爆発的な普及を支える重要な要因となった。
中国では国策によりTwitter(現X)やFacebookなどの外資系SNSへのアクセスが制限されており、代替として新浪微博(Sina Weibo)などのオープン型マイクロブログが勢力を誇っていた。しかし、過度な情報氾濫を避けるため、クローズドで親密な微信へとユーザーの比重がシフトした背景がある。
3. 音声メッセージと多様なコミュニケーション
もう一つ、中国の日常風景を変えた機能が「音声メッセージ」だ。街中でスマートフォンに向けて直接話しかける人々を見かけるが、これは文字入力を煩わしく感じるユーザーが、録音した音声をトランシーバーのように素早く送信する機能を利用しているためだ。この機能は老若男女を問わず、中国で非常に広く愛用されている。
4. モバイルマーケティングにおける微信の価値
現在、中国市場における企業のマーケティングにおいて、微信は欠かせないチャネルとなっている。LINEとは異なり、微信では法人向けの公式アカウントを比較的容易に開設できる。
オープンな「微博(Weibo)」で情報を広く拡散させ、関心を持った個々のユーザーをクローズドな「微信(WeChat)」の公式アカウントへと誘導し、一対一の密なコミュニケーションへ落とし込む。この「微博で広め、微信で繋ぎ止める」というデュアルトラックが、中国の消費者へアプローチする現代マーケティングの定石となっている。
出所:北京電通 岡崎茂生氏の知見(「中国人、ただ今スマホで『微信(WeChat)』中」)に基づき編集
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