
中国で毎年数億人が視聴する春節(旧正月)の特別番組「春晩(春節聯歓晩会)」。2026年のステージでは、中国のロボットスタートアップであるUnitree Robotics(ユニツリー・ロボティクス)のヒューマノイドロボット「G1」や「H2」が集団で高度な武術やアクロバティックな動きを披露し、大きな話題を呼びました。
ステージ上で高速かつ複雑に動き回るロボット同士が衝突せず、ステージの段差を正確に認識してパフォーマンスを行えた背景には、中国のLiDARメーカーであるHesai Technology(ハサイ・テクノロジー)の超広角3D LiDAR「JT128」の存在がありました。
今回は、ロボティクスにおける環境認識性能を劇的に向上させた「JT128」の技術的ポイントと、ロボット工学(ロボティクス)における最新トレンドについて解説します。
ロボットの「目」となる超広角3D LiDAR「JT128」とは?
Hesai Technology(ハサイ・テクノロジー)は、車載用およびロボティクス用LiDAR(光による検知と測距)分野でグローバル市場を牽引するテック企業です。同社がロボット向けに開発した「JT128」は、以下のような優れた特徴を持つ次世代の3D LiDARセンサーです。
1. 超広角な垂直視野角による死角の排除
一般的な車載用LiDARは水平方向の認識に特化していますが、JT128は水平360度、垂直約187〜189度という「半球状」の圧倒的に広い視野角(FoV)を実現しています。これにより、ロボットは自身の足元から天井付近まで、1台のセンサーで死角なく捉えることが可能になります。
2. 超小型軽量フォームファクタ
露出する受光窓の高さがわずか30mmと非常にコンパクトに設計されており、ヒューマノイドロボットの頭部や胸部、あるいは自動搬送車(AGV/AMR)の筐体にスマートに埋め込むことができます。可動部の制約が多いロボットの意匠を邪魔しません。
3. 高精度・リアルタイムな環境マッピング
256レイヤー(チャネル)相当の超高解像度な点群(ポイントクラウド)データを毎秒数十万点出力し、自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)や障害物回避アルゴリズムに即座に受け渡します。また、6軸のIMU(慣性計測装置)を内蔵しているため、ロボットが激しく動いて振動が生じても正確な姿勢補正が可能です。
身体性AI(Embodied AI)を支えるセンサー融合
春晩のパフォーマンスでは、多数のロボットが乱れのない同期制御でアクロバティックな動作を繰り返しました。これは、ロボット本体に組み込まれたAI融合位置測定アルゴリズムが、関節角度などの内部感覚データと、LiDARによる外部環境データをリアルタイムで高度に融合処理(センサーフュージョン)した成果です。
近年トレンドとなっている「身体性AI(Embodied AI)」においては、AIモデルが現実世界の三次元空間を正しく解釈する必要があります。低消費電力(1W以下)でありながら、周囲の三次元点群データをミリ秒単位でAI処理チップに供給できるJT128は、まさにAIが現実世界で物理的に行動するためのインフラ技術となっています。
産業用自動化とグローバル展開
Hesai TechnologyのLiDAR製品は、エンターテインメント分野だけでなく、物流倉庫のAMR(自律走行搬送ロボット)や、工場の自動化システム、自動運転タクシー(Robotaxi)など幅広い産業で採用されています。すでに米国の大手自動運転タクシー事業者とも4,000万ドル(約64億円)規模の大口供給契約を結ぶなど、その信頼性とコストパフォーマンスは国際的に評価されています。
日本市場における意義と今後の展望
日本はファナックや川崎重工業に代表されるロボット大国ですが、近年の自律型モバイルロボット(AMR)や身体性AIのソフトウェア・センサー統合のスピードにおいては、中国スタートアップの垂直立ち上がりが目立っています。
日本企業が次世代の物流ロボットや生活支援ロボットを開発する上で、Hesaiの「JT128」のような高性能かつ低コストなグローバルスタンダードセンサーを採用することは、開発期間の短縮と製品競争力の強化に不可欠なアプローチとなり得ます。同時に、センサーモジュールのオープン化(RISC-VプロセッサやオープンソースROS/ROS2とのシームレスな統合)が進む中、ソフトウェア層における独自の高付加価値化が日本のエンジニアに求められています。
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