
2024年の年間販売台数が401万3,000台へと落ち込み、2025年1〜11月累計では前年比16.4%増の410万8,000台へと回復基調を示しているものの、中国の元祖自動車最大手である上汽グループ(SAIC Motor)は、年間の自動車販売トップ(王座)奪還を実質的に断念せざるを得ない状況に追い込まれています。
新体制のもとでのリーダーシップと、従来のガソリン車から新エネルギー車(NEV)への構造転換における根深い課題について、財務および販売データから分析します。
リーダー交代と販売実績の長期推移
上汽グループは、2018年に過去最高となる年間705万台を販売し、中国国内で13年連続となる販売トップの座を不動のものにしていました。しかし、2018年をピークに販売は減少に転じ、2020年には560万台、2023年には502万台、そして2024年には前年比20.1%の大幅減となる401万3,000台へと急落しました。
この業績低迷の中、2024年7月には長年にわたりグループを率いてきた陳虹(Chen Hong)会長が退任し、新たな社内昇格組のベテランメンバーを中心とする新経営陣へと移行しました。新体制はグループ全体の立て直しと構造改革を進めていますが、急激な市場のEVシフトと価格競争の波に阻まれています。
ライバル「BYD」との覇権争い
上汽グループから販売トップの座を奪い去ったのが、急速なEV/PHEVシフトを成し遂げたBYD(比亚迪)です。BYDの販売台数は、2021年の74万台から、2022年187万台、2023年300万台、2024年427万2,000台へと指数関数的に成長し、上汽が18年間守り続けた中国最大の自動車メーカーとしての王座を奪取しました。
2025年も両社の激しい競り合いが続きました。1〜10月の累計販売台数において、上汽は364万7,000台に対し、BYDは約370万台と、その差を5万5,000台にまで縮めていました。しかし、11月のラストスパートにおいてBYDがリードを維持し、累計でBYDが418万2,000台、上汽が410万8,000台と差が7万4,000台へ拡大。残り1ヶ月での逆転は困難となり、上汽の2025年年間トップ返り咲きは絶望的となりました。
新エネルギー車(NEV)シフトにおける「二面性」の罠
上汽グループは、フォルクスワーゲン(VW)やゼネラルモーターズ(GM)といった海外メーカーとの合弁による「合弁ガソリン車」の販売依存から脱却し、自社ブランドの強化とNEV(EV・PHEV)への転換という二重の構造改革に取り組んできました。
グループのNEV販売比率は、2022年の20.2%から、2024年に30.8%、2025年1〜11月には36.5%へと上昇しています。しかし、中国市場全体のNEV浸透率がすでに40%から50%近くに達している中、上汽グループの移行スピードは市場平均を下回っています。
さらに深刻なのが、NEV製品ポートフォリオの歪みです。
1. 五菱(SGMW)の低価格・低利益依存
グループ内のNEV販売の大部分は、低価格帯(3万〜5万元:約60万〜100万円)の超小型EVを主力とする「上汽通用五菱(SGMW)」が稼ぎ出しています。
2025年上半期において、上汽通用五菱は75万3,000台を販売し、売上高は404.8億元(約8,100億円)、純利益は5.76億元(約115億円)を記録しました。しかし、これを1台あたりの利益に換算すると、**わずか765元(約1万5,300円)**であり、純利益率は1.4%というきわめて薄利なビジネス構造になっています。
2. 高級EV「IM Motors(智己汽車)」の巨額赤字
一方で、グループが威信をかけて立ち上げたハイエンドEVブランド「IM Motors(智己汽車)」は、2025年上半期に1万9,200台を販売したものの、売上高35.5億元(約710億円)に対して、純損失は18.2億元(約364億円)にのぼり、損失率は50%を超えています。低価格モデルでの薄利多売と、高級モデルでの投資未回収・赤字の継続という板挟み状態が、グループ全体の利益を圧迫しています。
ブランド別・合弁別の販売推移
上汽グループを長年支えてきた主力ブランドの現状は、既存のガソリン車事業が急速に縮小する一方で、自社製NEVの成長がそれを補いきれない「端境期(青黄不接)」の様相を呈しています。
- 上汽VW(SAIC-VW) 2018年同期比で約半分の水準にまで縮小。2025年1〜11月の販売台数は93万6,000台に留まり、伝統的な主力セダンの販売減少が続いています。
- 上汽GM(SAIC-GM) 最も深刻な打撃を受けており、2023年に年間販売100万台を割り込むと、2024年は43万5,000台へと激減。2025年1〜11月も48万7,000台と、かつての販売規模の4分の1以下へと衰退しています。
- 上汽通用五菱(SGMW) 「国民の足」としての強みを維持し、2025年1〜11月は150万台を販売して回復傾向を見せています。
- 上汽乗用車(SAIC Passenger Vehicle) 自社ブランドを担う同部門は順調に推移しており、2024年の70万7,000台に続き、2025年1〜11月は79万台を達成。グループ全体の成長エンジンとなっています。
子会社の財務と売上推移(主要合弁会社の縮小)
グループ全体の連結業績を牽引してきたのは、上汽VW、上汽GM、上汽通用五菱、部品大手の華域汽車、そして上汽財務の5つの主要子会社です。
なかでも屋台骨であった上汽VWの売上高は、2018年の2,593億元(約5.2兆円)から、2024年には1,357億元(約2.7兆円)へとほぼ半減。2025年上半期も前年同期比7.5%減の601億元(約1.2兆円)とジリ貧が続いています。また、上汽GMの売上も2018年の2,244億元(約4.5兆円)から2024年までに52.7%の大幅な減収を記録しました。
今後の展望と構造改革への挑戦
上汽グループが首位の座をBYDに奪われ、再登頂に手こずっている最大の理由は、これまで利益を生み出してきた海外ブランドとの合弁会社(VWやGM)のガソリン車が急速に売れなくなったためです。これを補うべき独自のNEV事業が、五菱による低価格EVの薄利多売に依存しすぎていること、またIM Motorsのような高級EVが依然として多額の投資・赤字ステージを脱していないことが事業再生のハードルとなっています。
2026年以降の成長軌道復帰に向けては、NEV製品群の高付加価値化、自社ブランド間の重複整理、そして販売ネットワークの再構築を含むドラスティックな組織改革が不可欠です。中国の自動車業界内で吹き荒れる「過酷な低価格競争(内巻:ネイジュアン)」を生き抜き、持続可能な収益基盤を持つNEV主導のメーカーへと生まれ変われるかどうかが、かつての王者の命運を左右します。
出典: 虎嗅
コメント
...