海外のIT大手が中国市場での展開に苦戦する中、逆に中国発のITサービスによるグローバル展開(海外進出)の成否に注目が集まっている。テンセント(騰訊)が開発するメッセージングアプリ「WeChat(微信)」が、米国市場における新規ユーザー獲得に向け、Googleと提携してアカウント連携キャンペーンを開始したことが明らかになった。
Googleアカウント連携による米国ユーザー開拓
WeChatは米国のユーザーに対し、「GoogleアカウントとWeChatをリンクさせ、Googleの連絡先から知り合い5人をWeChatに招待すると、米国の数千店舗のレストランで利用できる25ドル(約2,500円)分のデジタルクーポンをプレゼントする」という野心的なキャンペーンを打ち出した。
テンセントは2013年3月の時点で米国事務所を設立し、現地オフィスを通じて米国のWeChatユーザーの調査、パートナー開拓、ローカル企業との提携模索など、世界最大のインターネット市場への進出準備を着実に進めていた。
先行する巨大SNSとの競合と文化的な障壁
しかし、世界で最も競争が激しい米国のモバイルアプリ市場への参入に対し、業界アナリストや観測筋は慎重な見方を示している。特に以下の2つの大きな障壁が指摘されている。
- コミュニケーション文化の差異とインフラの壁: 中国ではキャリア経由のSMS送信が有料であり高コストだったため、無料のデータ通信でやり取りできるWeChatが爆発的に普及した。一方、米国では古くから携帯電話の料金プランに無料のSMS(ショートメッセージ)が含まれるのが一般的であり、新たなメッセージングアプリを導入する動機が薄いという文化的・環境的な違いがある。
- 既存大手の圧倒的シェア: Facebook、Skype、Twitter、Twitter、そしてモバイル特化型のWhatsAppなど、強力なプラットフォームがすでに米国ユーザーの生活に深く根ざしている。
当時、米国発のメッセージングアプリ最大手であったWhatsAppでさえ米国市場でのマネタイズや拡大に一部苦戦しており、日本や台湾で圧倒的シェアを誇るLINEも米国進出を開始したばかりという状況であった。
Googleのトラフィックパワーを活用できるか
こうした中で、Googleのプラットフォームパワーを活用する今回の提携は、WeChatに新たな可能性をもたらすと評価されている。
IT調査会社Deepfieldのデータによると、Googleの通信トラフィックは北米地域全体の約25%を占めており、これはFacebook、Netflix、Instagramのトラフィック合計を上回る規模だ。Google自身も独自のアカウントシステム拡大を狙っており、Facebookに対抗する手段としてWeChatとの連携に利点を見出したとされる。
また、WeChatはこれ以外にもグローバルでのブランド認知向上に巨額の資金を投じており、サッカー界のスーパースターであるリオネル・メッシ選手や、台湾の人気アーティストであるショウ・ルオ(羅志祥)氏をイメージキャラクターとして起用し、大々的な広告を展開している。
機能の現地適応と今後の課題
アナリストは、「海外市場において、すでに普及しているSNSのアカウント連携を利用するのは、認知拡大と登録プロセスの簡略化において合理的な戦略だ」と評価する。
一方で、業界関係者からは「クーポンなどのインセンティブによる一時的なユーザー獲得は、長期的なアクティブ率の維持には繋がらない」との冷ややかな指摘もある。WeChatが中国国内で成功を収めた決済機能、金融プラットフォーム(余額宝など)、ミニゲーム、ECといった強力なエコシステムをそのまま米国に移植しても、現地の決済習慣や法規制、既存プレイヤーとの関係性がない中では通用しない可能性が高い。
技術や資金力だけでなく、米国の現地社会やビジネスエコシステムにいかに深く入り込めるかが、WeChatのグローバル展開の成否を分けることになる。
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